交じり合う太陽と月





『おぉ…!初ホウエン地方!』


あたしは今この瞬間、人生初のホウエン地方へと足を踏み入れた。豊かな緑と美しい海が目を楽しませ、頬を撫でる優しい風が心を和ませる。今日はダイゴさんが大切に保管しているという珍しい化石を見せてもらうという名目でホウエン地方まで赴いたのだが、この自然溢れる景色が見られただけでも充分来た甲斐があったというものだ。


〈うん、悪くない空気だね。〉

「だな!こーちゃんとさめっちも来りゃよかったのに。」

『いやもう本当にその通りだよ!バトル続きで疲れが溜まってた蒼刃と疾風は別として、紅矢と氷雨はただの物臭!』


全くもう、と腕を組んでセイガイハのポケモンセンターでお留守番をしている彼らに臍を曲げる。あたしがホウエン地方に行くと決めた時、師弟コンビは予想通り自分も行くと言ってくれた。だが彼らは連日のバトルの疲れが酷かった為、大事を取って休ませることにしたのだ。それとは正反対に、あまりバトルをしていない筈の紅矢と氷雨は用があるからと言って同行を断った。ちなみにその用とは、紅矢は新作のお菓子を買いに行くこと、氷雨は読みかけの本を読むこと…だそうだ。


『物臭代表の雷士ですらついて来たって言うのに…。』

〈何か言ったヒナタちゃん?〉

『いだだだ!!褒めたのに!一応褒めてるのに雷士くん!』

〈そうは聞こえなかったけどね。〉

「らいとんの静電気は今日も絶好調だなー!」


いやいや、正直やられてるあたしとしては絶好調じゃ困るんだけどね…。静電気によってボサボサになってしまった髪を必死に整えながら項垂れる。


『えっと…約束の時間より早く着いちゃったし、少しこの辺りを見て回ろうか。』


マップによるとこの場所はミナモシティという町らしい。海がこんなに近くにあるなんて素敵だなぁ。あ、何あれデパート!?す、すごい、大きい…!タマムシシティのデパートと同じくらいあるかも!


『ねぇ2人共、あたしあのデパートに行きたいんだけど…。』

〈いいんじゃない?確か傷薬とかも少なくなってきてたでしょ。〉

「だな!この地方にしかねー物も売ってるかもしれねーし行ってみよーぜ!」


よし、雷士と嵐志も中々乗り気のようだ。えぇと、確か残り少ないのは傷薬になんでもなおしに…あ、後スプレーも買っておかなくちゃ。これだけ大きなデパートだから、嵐志の言う通りトレーナー用品以外も売っているかもしれない。幸い時間はあるし、せっかくの機会だからじっくり物色するとしよう。

元々買い物好きなあたしは内心逸る気持ちを抑えながらも、ウキウキとミナモデパートへ向かった。



ーーーーーーーーーーーー



『え、エネコドール可愛い…!あ、ほら見て雷士!ピカチュウ型のテーブルだって!』

〈僕としてはどう反応していいか分からないんだけど。〉

「ぶはっ、さっすがポケモン界の人気者はグッズでも大忙しだな!」


バトル用品の買い出しを終えたあたし達は、次に可愛らしいぬいぐるみやマットが売られている階へと来ていた。ホウエン地方ではひみつきちというものが流行っていて、多くのトレーナーが自分のひみつきちに置くグッズをここまで買いに来ているらしい。後聞いたところによるとカイナシティという町にもこういうお店があるのだとか。

いいなぁ、自分だけのひみつきちを作れるなんてとても楽しそう。作る為には特別な場所と技が必要らしいけど…詳しいことは後でダイゴさんに聞いてみようかな。


『本当に可愛いグッズばっかり…んー、せっかくだし何か買っ…きゃ!』

「っ!?」

『あ…っご、ゴメンなさい!大丈夫ですか!?』


横を向いて棚を見渡しながら歩いていたのが不味かったらしく、擦れ違い様に誰かとぶつかってしまった。幸いにもお互い転ぶことはなかったけれど、完全にあたしの不注意なので慌てて謝罪の言葉をかけると…。


「えぇ、大丈夫。少し驚いただけですから。」


ふわりと揺れる長い黒髪に、深い海のような青みがかかった瞳。あたしに向かってにこりと微笑んだのは、美少女という他に言い様のないくらいの綺麗な女の子だった。


『……っか、かわっ……!!』

「おー、悶えてんな姫さん!」

〈珍しいね、いつもなら可愛い子と喋ると我慢出来ずに所構わず飛び付くのに。〉

『ちょっとあたしを変態みたいに言うのやめてくれるかなドSピカチュウ!!』


思わず伸びそうになった手をグッと抑えたまま雷士に吠える。くっ、さすが相棒なだけあって悔しいけどあたしをよく分かってるよ…。それにしても危なかった、無礼を働いた上にいきなり抱き付くなんてさすがに訴えられるよね。


「…あなた、ひょっとしてポケモンの言葉が…?」

『あ"。』


しまった、久々にやってしまった。じっと見つめてくる女の子にあからさまに動揺してしまったけれど、これでは自らそうですと認めているようなものだ。決して隠そうとしていたわけではないが、この子は一体どう思ったのだろう。もしかしたら引かれちゃったんじゃ…と不安げに見つめ返すあたしに、女の子は再び微笑んだ。


「私と同じ。私もポケモンの言葉が分かるのよ。」

『…え、えぇ!?ほ、本当に…!?』


見たところ同じくらいの歳だからなのか、女の子はあたしに警戒心を抱いてはいないらしく言葉遣いも砕けたものに変えてくれた。いやそれよりも、まさかここで同じ力を持った人に会えるなんて!

途端にキラキラと目を輝かせたあたしを見て女の子はクスりと笑い、あたしに向けて手を差し出した。うわ、手まで綺麗とか羨ましい…。あたしはほう、と息を漏らしながら、白くしなやかな手のひらをソッと握った。


「私はシスイ、よろしくね。」

『あ…ヒナタ、です!よろしくシスイちゃん!』





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