素敵な出会い



今日は腰のボールホルダーに二つのボールしかセットしていない。
中の子達はボールの中で熟睡中。



辺りを見渡せば、あまり見慣れない景色が広がっている。
来たことがないわけではないが、いつもの散歩がどうやら遠足に変わっていたようだった。


必要最低限の物はいつも持ち歩いているので、貴重品などの心配はいらないのだが。
どうも考え事をしながら歩くのはやはりよくないらしい。


珀がいつも言い聞かせるかのように言う言葉に今納得しながら、
ここで突っ立っていてもしょうがないとシスイはとりあえずポケモンセンターを目指した。



“シスイ様、よろしいですか。考え事をしながら歩かないでください。貴女はいつもとんでもない所に到着しているのですから”




「とんでもない所、か」




シスイはぽつりと呟き、目に入った看板に苦笑した。




『ヒトと ポケモン そして 自然が 行き交う 港』




そう、ここは、市場や造船所、博物館があることで有名なカイナシティだった。





ボールの開閉音が響いて、中から出てきたのはぼさっとした黒髪を持つこの男。
出てくると同時に人型に戻ったため、誰にも見られずに済んだが。



「こら、獅闇」
「ふわあ…あ?ああ…問題ねーよ」



獅闇はもう一度欠伸をして、辺りを見回した。
見慣れない風景に首を傾げる。


青い空、白い雲、そして青い海。
地元であるミナモシティにも海はあるが、ここまで至近距離だっただろうか。
おかしい。
獅闇はふと考えて、がばっという効果音が付きそうなくらいに彼女の方に顔を向けた。



「お、おま…ここ…って」
「う、ん。カイナシティ…かな?」



遠足…だよね。


にへらと笑うシスイ。
その何とも呑気な発言に獅闇はぽかんと口を開けて、彼女を凝視する。


いや、おかしい。
散歩だからってその付き添いで付いてきたはず。
もう一度言う。
散歩、だと。



それなのに着いた先はミナモから結構な距離があるであろう、カイナシティ。
もしかしてと獅闇は彼女に近づいた。



「獅闇?」
「まーた考え事して歩いてたな?」



珀が言っていた。
シスイは考え事をし出すと、周りが見えなくなるから大変だ、と。
そこで獅闇ははっとして、一気に血の気が引いていく感じがした。



“ですから、獅闇。しっかりとシスイ様を見ていてくださいね”



ああ、しまった。やってしまった。

獅闇は自分の失態に頭を抱えた。
どうも昨日は寝不足で、十分な睡眠を取ることができなかったためかボールに戻るなり爆睡してしまった。


獅闇は嘆く。
これは、腹を括るしかない。
戻ったら珀に殺されるということに…



「ご、ごめんね、獅闇」
「いや…」



シスイは眉を下げて、獅闇を見た。
彼女にそんな顔をさせたいんじゃないと獅闇は頭を振り、シスイの頭を撫でた。

さらさらの黒髪が指の間を滑っていく。
綺麗だ、と思いながら少し笑った。



「ま、別に死にはしてないんだから、シスイが言うようにこのまま遠足っていうことでいいだろ」



俺、しばらくぶりにここ来たから少し見て歩きたい。


獅闇はそうシスイに言って、また周りを見渡した。
市場から聞こえる賑やかな声、頭上を通るキャモメ達。
博物館の前には子ども達もたくさんいて、親子連れが目立っていた。


その光景に何ともいえないワクワク感を感じながら、獅闇はシスイに向き直った。



「な、ちょっと遊んでいこうぜ。ここらにおいしいクレープ屋があるんだってよ」



その時、もう一つのボールの開閉音が響いて、中から出てきたのは。



『クレープ!?』



ライチュウ姿で嬉しそうに跳ねる雷。
長い尻尾もそれに合わせてひらひらと動いている。



「雷、おはよう」
『おはよ!シスイ!クレープ食べに来たの!?ミナモにクレープ屋さんできたんだ!』



当たっているようで当たっていない雷の言葉に二人は苦笑した。
寝ぼけているのかいないのか。
しかし、彼の瞳を見るとまだ眠たいというわけではなさそうだが…



「雷、周りをよーく見てみろ」
『周り?』


雷はキョロキョロと視線を巡らし、辺りを見た。
いつもと違う風景がそこには広がっていて。
それでもテレビなどで見たことのある建造物が目に入った。



『!?カイナシティーーーーーーーーーーー!?!?』

「ライライラーーーーーーイ!?!?」



ライチュウの声がここカイナシティに響き渡った。






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