今日は家に誰もいなくてよかった。
自分のこんな姿を誰にも見せたくはないし、何よりシスイ様のこのような可愛いお姿を誰の目にも入れたくはない。



「は、珀…!」
「はい」
「本当に、どうしたの…?」



どうもしない。
だが、少し甘えたいのかもしれない。
そんなことを言ったら、貴女は笑うだろうか。

私はシスイ様の首筋に顔を埋めながらクスッと一つ笑いを零した。




「珀」
「…はい」
「今日は、特別よ」



シスイ様は私の気持ちを察したようにそう仰ると、私の頭をゆっくりと撫でる。
あまりにも優しい手つきに、涙が零れそうになった、とは絶対に言わないが。


甘えさせてくれているのをいいことに、私はシスイ様の綺麗な首筋にもキスを一つ落とした。



「は、珀…!」



私はゆっくりと頭を上げると、彼女に顔を近づけた。




「今日は、」




そして私の目線は目、鼻と下りていき。




「特別、なのでしょう?」




淡く、血色の良い唇へ。
そこへそっと自分の唇を重ね、暫く味わうようにキスをすると彼女の下唇を咥えるように名残惜しげに離した。



「…!?」
「ふふ。ごちそうさまでした」



言葉にならないというように目を見開いて固まっているシスイ様を横目に、私は立ち上がりにこりと笑った。



さて。
そろそろ家事の続きをしなければ。


そう思いながら、再度シスイ様を見れば、自分の唇を触りながら未だに放心状態でおられた。

少しそっとしておこうか。




私はまた一つ笑いを零すと、静かにキッチンに入っていく。
今日の献立をあれこれと考えながら、私は冷蔵庫を開けて大きな肉の塊を出すのだった。





<終>
→あとがき





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