触れたくて、思わず。




夜空を塗りたくったかな様な深い青みがかった黒い瞳が私を映している。
歓喜で私の胸がドクリと震えた。


この方は解っておられないのだろう。
貴女の些細な仕草でさえ、私の胸を熱くするのには十分過ぎることを。


私の姿が貴女の瞳に映っているとわかるだけでも“愛されている”と実感できるのだ。




「…?珀?どうしたの?」



そのように覗き込まれて。
嗚呼、なんと愛おしい。


ふわりと揺れた彼女の黒髪に思わず手を伸ばして、ひと房掬うとさらりと指の間を流れ落ちていった。
陶器のように白いシスイ様の頬を撫でれば、途端に淡く染まってまるでイチゴのようだ。



「いいえ。貴女がとても可愛らしくていらっしゃるので」



思わず触れたくなりました。



笑顔でそう言えば、一段と染まる頬。
恥ずかしそうに伏せられた瞳に、長い睫毛が影を落とす。



「シスイ様」
「な、なに?」



屈みながら、彼女の耳元にそっと唇を寄せた。
鼻腔を擽るいい香りに柄にもなくドキドキとする。

私は静かに口を開き、息を吹き掛けるように言葉を紡いだ。



「もっと。もっと、触ってもよろしいでしょうか」
「っ!」



真っ赤に染まったシスイ様の柔らかな耳たぶにそのままわざとリップ音が鳴るように口付ける。
りんごのようになった彼女がとても愛らしい。


私の中の何かがもっとと渇望している。
なけなしの理性を頑張って総動員させながら、私はシスイ様を抱き寄せた。









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