一方。



「ま、マスター?どこー…?」



さらさらとした鮮やかな緑の髪が風に揺れている。
また彼の瞳も不安で揺れていた。

形のいい眉がこれでもかというくらいに下げられ、今にも泣き出しそうだ。


一体ここはどこだろうか。
自分は確か主であるヒナタとその仲間達と共にホウエンに用事があるからと、訪れていたはず。
そして、途中で寄ったとある街で、買い物をしようと言うので荷物持ちとしてヒナタの横に寄り添っていたと思っていたのだが。

いつの間にか、人の群れに呑まれはぐれてしまったようだった。
キョロキョロと辺りを見回してもそれらしき姿がまったくなく、不安に拍車が掛かった。



「ま、マスタぁ…」


自分でも情けない声だと思う。
だが、ここが土地勘がない場所だとそうなるのも無理はないだろう。

疾風は目に入ったベンチによろよろと近寄り、そっと座った。
さて、これからどうしたらいいのだろうか。


と、考えあぐねていると。


自分の頭上に影ができた。
反射的に顔を上げると、自分より少し濃い緑の髪を持つ青年が、首を傾げ自分を見下ろしていた。



「どうしたの?大丈夫?具合でも悪い?」



あまりにも優しい声に、疾風は思わず涙ぐむ。
どうしたことか、涙が止まらない。



「っ…うっ…!」
「え?!ちょ、え!本当大丈夫!?ごめん、ちょっと隣座るね…!」



緑色の彼は持っていた荷物を足元に放り出すと、疾風の隣に腰を下ろしゆっくりと背中をさする。
その手つきがあまりにも優しくて、余計涙が溢れた。



「よしよし。大丈夫。落ち着くまでここにいてあげるから」
「ず、ずみまぜん…!」




緑の彼、奏は時折涙を拭いてあげながら、疾風の傍にいて背中をさすり続けた。









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