「ふー…」


二人分のため息が重なる。


一通り買い物を済ませ、シスイ達は屋上の休憩所のベンチに腰を下ろした。
足元には大きな袋が二つ。

デパートに来ると、いつも余計なものまで買ってしまうから、当然荷物も重くなるわけで。



「…またやっちゃった」
「しょうがないよ、だって楽しいもんねデパート」



雷は気にした様子もなく、むしろ楽しそうに言った。
シスイはそんな彼の言葉にそうね、と頷いた。



「あ!シスイ、僕ジュース買ってくるね。何がいい?」
「じゃあ・・・ミックスオレ!」
「ラジャー!」



と雷は自分愛用のライチュウ小銭入れを握って、自販機に向かっていった。
そんな後姿を微笑んで見送ったシスイはふっと空を見上げた。


今日も快晴。
心地いい風がシスイの頬を滑っていった。



気持ちいいなあ・・




そんな晴れやかな気持ちでいたのだが。



* * *




「ねぇ彼女!」



何ともありきたりな。
ベタな台詞がシスイの耳に入った。
だが、自分じゃないと思い込み、無視を決め込む。



「ねぇねぇ、キミだよ!そこの黒髪の!」



ああ。
何と不運なんだろう。

シスイはゆっくりと顔をその声の方向に向けた。
見るからにチャラそうな男が一人、薄気味悪い笑みを浮かべて立っていた。


シスイは心底嫌そうに眉根を寄せる。



「……何か?」
「へー・・美人だね。ねぇ、オレと今から遊び行かない?」
「行きません、連れがいるので」
「いないじゃん。一人なんでしょ?」



というナンパにお決まりの会話をし、男はシスイの肩に腕を回そうとする。



「ぐほぉっ!!」


しかし。
目の前からいきなり男が消えた。
まさに、“消えた”が的確だろう。



「・・・え?」



シスイがふと足元をみると、サイコソーダの缶が落ちている。


まさか。

そう思い、男に視線を向けるといつの間にかその前に雷が立っていた。




「何、お前」



珀もびっくりな低い声がシスイの耳に入ってきた。
自分が知っている雷の声はもう少し高くて、元気な声だ。


雷は男の前に立ち、無表情で見下ろす。



「誰に手ぇ出そうとしてんの」



シスイはもうそれを唖然とした表情で見るしかなかった。
気付けば、周りにいた他の人たちも遠巻きにこっちを見ている。



「あ、雷…」
「シスイはちょっと黙ってて」



そんな雷の雰囲気に、はいとしか返事ができず。


雷はそのまま男の胸倉を掴むと、無理矢理立たせる。
男の顔は恐怖に染まっていた。
が、それも気にせず雷はなおも詰め寄る。




「さっさと帰れよ。ここがどこだかわかってんだろ?」




自分達が守る地。
彼女がここに住んでいる限り、勝手は許さない。


雷はぱっと男から離れると、すっと目を細め相手を睨みつける。
男はひぃぃっと一目散に逃げていった。

雷はパンパンと手を叩くと、シスイに駆け寄る。



「シスイ!大丈夫?!ケガとかしてない?!」
「え、ええ・・大丈夫よ・・」
「よかったぁ…!」



はい!ミックスオレ!



と雷は何事もなかったかのようにシスイにミックスオレを渡す。
シスイはそれを受け取り、ありがとうと苦笑した。



「あーあ、僕のサイコソーダ、ぺっちゃんこになっちゃった・・」



しゅんとする雷はいつもの彼で。
シスイは少し安心したように、雷の頭を撫でる。



「買ってあげるから、一緒に行こう?」
「!ホント?!わぁ!ありがとう!シスイ!」



雷は自分の腕をシスイの腕に絡め、一緒に歩き出した。







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