とあるお客の話



突然だが、うちの店にいつも来てくださるとあるお客さんの話をしようと思う。



その人は店先に並んでいる新鮮な魚たちを楽しそうに見ながら、いつも何匹か買っていってくれる。
きっと、どんな献立にしようかなんて考えているに違いない。


しかし、そのお客さんは途轍もなく人間離れした容姿でどうも魚屋には浮いてしまっているのだ。
白に限りなく近い銀髪はいつも太陽の光でキラキラと輝いているように見えるし、
考え込むときに顎に添えられた手はしなやかで作り物みたいに綺麗だ。


極めつけはどれも整いすぎた顔のパーツ。
それは一つ一つバランスよく配置されていて、神の最高傑作なのではと思わせられる程に整っている。


こんな美しい人を見たことがない。
初めて彼にここで会った時にそう思ったのを今でも覚えている。
その日に彼が何を買っていったかまで鮮明に記憶しているのだから、相当な衝撃だったのだろう。



“この鯖を2匹頂けますか”



そう言ってふわりと笑う彼は言葉では言い表せない程に美麗で、儚さすら感じられた。
その後、私がちゃんと会計できたかなんて覚えているはずがない。
確か、“捌きますか”と聞いたけれど“いいえ、自分でできますから”と言われ、こんなに儚い人が魚を捌けるのかと思ったはず。



あとで母に聞いてみると、彼は意外にもこの魚屋の常連さんで、しょっちゅう買い物に来てくださっているそうだ。
ミナモではちょっとした有名人らしく、おばさま方の間では彼はとても人気者らしい。







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