隠しきれず






いつも優しそうな瞳は珍しく釣り上がり。
眉間にはこれでもかというくらいにシワが寄っている。


腕を組んで、人差し指をトントンと忙しなく動かしながら奏はとうとう口を開いた。



「どういうこと珀」
「と、申しますと」
「惚けんな。シスイの首、見たでしょうが」



奏は自分の首筋を指しながら、キッと珀を睨みつけた。
珀はそんな彼の睨みを物ともせずに、キッチンで昼食の準備をする。


そんな珀の様子に苛立ちを隠しきれずに、声を少し荒げた。



「その場にいながらなんてことされてんのさ!」
「そこで私がやった、ということにならない辺り、奏は本当に優しいんですね」
「珀!!!」



信用していただけているようで何よりです。




珀は小さく笑いながら、包丁を握り手際よく具材を切っていく。
小気味いい音がとても心地よいが、奏はそんな気持ちになれなかった。


我が敬愛する主人が知り合いとはいえ、あんなものを付けられたのはさすがに許せなくて。
その場にいたであろう珀に話を聞こうとしただけなのに。

思ったより飄々としている彼に苛立ってしまったのだ。



「珀は悔しくないわけ!?俺らだってあんなことしたことなんて一度もないだろ!」



そう奏が叫ぶと、途端にピタリと珀の手が止まった。
そしてゆっくりと顔を上げた珀に奏は目を見開いた。



「私だって腸が煮えくり返りそうなんですよ」



唇を強く噛み締め、瞳はゆらゆらと揺らめいているように見える。
包丁を持つ手は震え、怒りを必死で隠そうとしていた。



「やはり、」





奏は聞き逃さなかった。
珀の小さな呟きを。

彼のあまりの怒りにこちらまで震えそうになった。
この男は絶対に敵に回してはいけない。


奏はこの時改めて思ったのだった。





“消しておくべきだったか。”





どうかシスイのためにも早く彼の怒りを沈めなければ。



奏は大きく溜息を吐き、やれやれと肩を竦めるのだった。






(終)


なぜか書かなければいけない気がした。(使命感)
ぜひ本編の該当する話を読んでから、こちらをお楽しみいただければと思います。

え?奏らしくない怒り方だって?
キスマークはだ め だ 笑





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