愛を知らない俺は。




彼女は“綺麗”だ。



外見は勿論のこと、内面も綺麗だと思う。
汚れを知らないような、まっさらな心と絵画に出てくる女神を彷彿とさせる容姿。
それは昔から変わらない。

出会った時の衝撃を未だに俺は忘れていない。
果たして、この人に触れてしまっていいのかと躊躇うほどだった。


当時、親とはぐれてしまった俺は寂しさでなんでもいいから縋りたかった。
だが、それすら留まってしまうほどに彼女はとてつもないオーラを放っていたのだ。


俺はそれをなんとか奮い立たせて、彼女に近づいていったのを今でも覚えている。
その後の微笑みだって、全部、全部覚えている。



「…ん…」
「起きた?」



いつの間にか、彼女に寄りかかって寝てしまっていたらしい。
どうりで心地よい昼寝ができたと思った。
シスイの隣は酷く安心する。



「奏?大丈夫?」



俺はまだ覚醒しきっていない頭をなんとか覚まそうと、彼女の肩からゆっくりと頭を上げた。
そして、ゆっくりとシスイの顔を見つめる。



「奏?本当に大丈夫?具合悪い?」



彼女の瞳に俺が映っていることがただひたすらに嬉しくて、そっと手を伸ばし頬に触れた。
色白の肌は滑らかで、儚ささえ感じる。




どうしたんだろう、俺。
どうしようもなく、彼女に、甘えたい。




「シスイ…」
「ん?」



珀には内緒だよ。



そう呟き、俺は顔を寄せ、その頬に口付ける。
そして、そのまま腕を伸ばしシスイをすっぽりと包み、首筋に顔を埋めた。



嗚呼。
安心する。


「奏…」
「今日だけ、だから…」



今日だけ、なんて嘘だ。
きっと俺はこの先も、シスイに甘えていくのだろう。



あと少しだけ。
小さく心で呟いて、少しだけ力を込めれば、シスイもまた俺を抱きしめ返してくれる。


俺の心の内をきっとわかっているのだろう。
何も言わずに、ただ俺の頭を撫で続けてくれているのだ。


愛という愛を知らない俺に、いつも彼女は惜しみない“愛”を注いでくれる。
それは麻薬のようで、一度知ってしまったら抜け出せない。
抜け出す気もさらさらないのだが。


だから、俺は思う。
俺だって、彼女をどろどろに甘やかして、抜け出せないようにするのだと。



「大好きだよ、シスイ」
「ふふ、私だって大好きよ、奏」




そうやって俺はシスイを愛していくのだと、彼女の香りを感じながら、密かに決意するのだった。








(終)



お久しぶりです。
リハビリも兼ねての短編でした。
グダグダですみません…
少し甘めを書きたかったのですが、撃沈しました。

楽しんでいただければ幸いです。





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