嫉妬して、嫉妬されて。




自分の家族が随分と人の目を引くのはずっと昔から知っていることだった。
珀や海輝を始めとして、皆顔立ちが整っていて、それは街を歩いたら女の子が放っておかないだろう。


現に、前、奏とデパートへ買い物に行った時だって私が少しトイレに立っただけで、ここぞとばかりに女の子達が奏の周りを囲んでいたのだ。

奏は牙と違って、愛想がいい。
女の子達に対してその気がなくとも、奏は人懐こい笑みや当たり障りのない言葉でのらりくらりと躱している。
だが、それが愛想笑いだとわかっていても何だかいい気がしないのはどうしてだろう。


自分の仲間が人に好かれるのはとっても喜ばしいことなのに。
素直に喜べない自分がいて、とても自己嫌悪に陥る。




「……」
「まぁ…珀、だしな」




今日家には珍しく誰もいなかった。
けど、たまたまオフだとリンが家にやってきたのを捕まえて、買い物に付き合ってもらった時のことだった。



出先でたまたま女の子達に囲まれる珀を発見したのはつい数分前。
私の機嫌は急降下。
何故、だかわからないけれど。


とってもいい気がしない。



私の顔に気付いたリンが慌て始める。



「き、気にすんなよシスイ。珀もああいうの興味ないの知ってんだろ?」
「でも、なんか、もやもやする」



きっと私の今の顔はすごく不細工だろう。
頬を膨らますなんて、子どもっぽくて情けない。
私はこれでもあの子の主人なのに。



「もう、いいや。行こう、リン」
「え、あ、ああ…」


私は未だに囲まれる珀を尻目に、リンの腕を掴んでその場を後に…しようとした。




「お待ちください、シスイ様」



いつの間にか私達の前に珀の姿があり、私ははっとする。
さっきまでちやほやされていたではないか。


ムッと珀を睨みつけて、リンの腕にしがみつく。



「い、いや、ちょ、シスイ」
「なーに、珀。貴方は別の用があるんじゃないの?」



普段、珀にこんな刺々しい言い方はしない。
けど、どうも今回は私のイライラの方が勝ってしまっているようだった。

私のその言い方に驚いたのか、珀は少し目を見開きながらも冷静に返してきた。



「シスイ様、お買い物なら私がお付き合いします。ですから、その竜胆の腕を…」
「私が誰とどこで何しようが、珀には関係ないでしょう?私のことはいいから、珀は自分の用を済ましてきなさい」



ああ、イライラする。
イライラすることにイライラする。
隣で慌ててるリンにも構ってあげられる余裕がないくらいに。


しかし、その言葉を吐いたことを後悔はしていない。
事実であるし、珀にだって自分のことを済まして欲しいのだ。


だが、珀はすっと目を細めると無理矢理私とリンの距離を離し、自分の腕に私を収めた。
珀の胸に飛び込む形となってしまったことに一気に顔が熱くなる。
珀が普段付けている香水の香りが鼻腔を擽った。



「関係ないなど有り得ません。私は常にシスイ様のことを心配しております。
シスイ様が何処の馬の骨かもわからない男と出かけると考えただけで、嫉妬でおかしくなりそうです」
「し、嫉妬って…」
「貴女は…」



私にだけ笑いかけていれば良いのですよ。



耳元から入ってきた声に全身が震えた。
あまりにも妖艶で、それでいて少し狂気が見え隠れしている気がして。


でもそれが不思議と嫌な感じはしなくて。
相当私は珀達に依存しているのだろう、とふとそんなことを考えた。



「竜胆、もう帰っていいですよ。シスイ様のこれからのお時間は私がお供しますので」
「あ、ああ…シスイ、またな」
「え、ええ…また遊びにおいで」



珍しくリンの焦った顔が見れた。
この時、珀が身の毛もよだつ瞳をしていたなんて、私は知る由もない。

その時はただただ珀の腕に包まれて、いつの間にか安心している自分がいたのだった。








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