「…き…」
意識が浮上していく。
もう少し…だけ…
「…かき…」
聞き慣れた声が俺の耳に入ってくる。
とても心地の良い綺麗な声が。
「…海輝!」
「!!」
ハッとして目を開く。
どうやら俺は眠っていたらしい。
気づけばシスイが俺の顔を覗き込んでいた。
「海輝、そんな格好で寝てたら風邪引くわよ」
「…シスイ…?」
シスイは俺にタンクトップとパーカーを手渡し、そのままキッチンへ向かった。
まだ覚醒しきっていない頭を何とか働かせて、俺は渡されたタンクトップとパーカーを着た。
確かにちょっと肌寒いかもしれない。
洗いたてなのか、俺の服からは洗剤のいい香りがした。
そしてゆっくりと立ち上がって、キッチンにいるシスイの後を追った。
シスイはどうやら紅茶を淹れるようだった。
「疲れているんでしょ?海輝」
ちらと俺を見てから、また手元に視線をやったシスイはてきぱきと紅茶を淹れる準備をしていく。
俺はその質問に苦笑で返し、食卓の椅子に座った。
「紅茶は?」
「…いただきます」
「了解」
シスイは棚から、俺専用のマグカップと自分のを出し、ゆっくりと注いでいった。
途端にアールグレイの匂いが俺の鼻腔を擽った。
コーヒーも好きだが、紅茶も好きなのはこの香りのお陰もあるかもしれない。
「シスイ」
「んー?」
「今日は俺の隣に座ってくれませんか」
どうしてだか、今日は彼女にすごく甘えたくなった。
そんな俺の言葉にシスイは少し目を見開くと、すぐに微笑み頷いた。
二人分のカップを持って一つを俺の元に置いたシスイは、隣に腰を下ろした。
お礼を言って、一口飲む。
うん、美味しい。
「おいしい?」
「はい、とても」
そう答えながら、俺はシスイの肩にそっと自分の頭を乗せた。
ふわりと香る彼女の匂い。
安心する。
シスイはくすっと笑うと、そのままゆっくりと俺の頭を撫でる。
その行為だけでも俺の心は満たされていった。
嗚呼。
なんて愛おしいんだろうか。
「髪、結ってないのね」
「シャワー上がりでしたから」
「海輝の髪、長くてとても綺麗よね。ピンク色もすごく素敵」
そう言うシスイだって綺麗な長い黒髪だ。
しかも、とても柔らかくてふわふわしていることだって知っている。
俺はシスイに頭を預けたまま、にこりと笑った。
彼女に褒められて悪い気はしないのだ。むしろ嬉しい。
だから、この髪だって大事にしようと決めている。
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