珀の部屋を訪れた。
ノックを3回。
すると中から、“どうぞ”と綺麗な声が返ってきた。
静かに開けると、机の椅子に座って万年筆を握っている彼の姿。
何故だかとっても似合っていて、少し緊張してしまった。
「お邪魔、シマス」
「ふふ、どうぞ」
どうしましたか?と優しい顔で聞いてくる珀の目の前まで行き、さっき借りた綿とソーイングセットを返した。
「あと、これ、も…」
その上に、先程作ったアブソルマスコットをちょこんと遠慮がちに置く。
なかなか自分ではうまくいったと思うのだが、やはり初心者は初心者だ。
縫い目だってきっとバラバラだと思う。
そう思ったら急に恥ずかしくなってきて、俯いてしまう俺。
「これは…」
「う、ん。書斎でマスコットの本、見つけて…珀にフェルトとか、いろいろ借りた、から…お礼」
ちらと視線を上げて、珀を見る。
俺の方が珀より背が高いから、少しだけ見下ろす形になるが。
けれど、見えた珀の顔を俺はきっと忘れないだろう。
「ありがとうございます青炎。とても上手にできていますね」
初めてとは思えません。大事にしますね。
と、あまりに綺麗に笑うものだから、俺は目を見開いた。
褒められるって、やっぱり嬉しい。
「ほんと?変、じゃない?」
「ええ。とても素敵ですよ。縫い目だって綺麗ですし」
「ほんとに、ほんと…?」
珀は返事の代わりにそのマスコットを自分の財布に付けた。
「ほら、似合っているでしょう?」
財布を俺に見せて、珍しくいたずらっぽく笑う珀にますます嬉しくなって、俺は珀の腕を引っ張った。
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