「フェルト?」



裁縫といえばこの人だ。

前に珀の裁縫セットの中にたくさんのフェルトが入っているのを見たことがあった。

それはもう色とりどりで、見ていて楽しかったし、傍らには作りかけのデデンネドールがあったのはたぶん俺しか知らない。


リビングのソファで読書をしていた珀に、フェルトやら何やらを少し分けてもらえないかとお願いをしにきたのだ。




「うん、あと綿?とそーいんぐせっと?も貸してくれたら、嬉しい」
「それは勿論構いませんが、ぬいぐるみでも作るんですか?」



珀は本に栞を挟みながら、立ち上がって“こちらですよ”と俺を案内してくれた。
俺はひょこひょこと後をついて行きながら話す。



「うん。俺、裁縫とかやったことない、からやってみたくて…ぬいぐるみ、可愛いし…」


ふわふわ、もこもこしてて、シスイみたい。



本当の理由は伏せておいたが、その言葉に珀は笑って、そうですねと賛同してくれた。




案内された部屋はもちろん珀の部屋。
やっぱり綺麗に整頓されていて、全体的にモノクロのインテリアが彼にとても似合っている。
珀は奥の棚から大きな箱を出すと、それを開けてくれた。


中からはたくさんのフェルト。
俺は自然と顔が綻ぶのを感じながら、その中からお目当ての色を取った。




「珀、これ、とこれ。もらっていっても、いい?」
「ええ、勿論。ああ、それからソーイングセットと綿はこれです、どうぞ」



渡されたソーイングセットは使い込まれていて、レトロなデザインが珀っぽいなと思った。



「ありがと、珀」
「どういたしまして。何かわからないことがあれば遠慮なく聞いてくださいね」



そう言って笑った珀はやっぱり優しい。
俺はそれを受け取ると、にこりと笑って改めてお礼を言った。
よし、珀にも、アブソルのやつ、作ってあげよう。


そう決心した俺は意気揚々と自分の部屋に戻っていった。




* * *





裁縫はすごい。
時間も忘れて、やり込んでしまうらしい。


最初は糸通しのところから四苦八苦していたものの、時間が経つにつれて慣れていった。
縫い方だってまったくわからなかったのに、この本が丁寧なのか、今ではすいすいと縫えている…と思う。



それが何だか楽しくて、鼻歌まで歌う始末。
あとは、綿を詰めて終わりだ。




頭の部分だけだけど、なかなかうまくいったのではないかと思う。
シスイ、喜んでくれるかな、なんて想像しながら頬が緩んだ。
きっと珀も喜んでくれる。


俺は先に出来ていたアブソルマスコットを見ながら、また一つ笑いを零した。






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