ツイてない
「きゃあ!」
朝。
私は石に躓いて転ぶ。
咄嗟に珀が支えてくれたから、地面とキスする羽目にはならなかったけれど。
「大丈夫ですか、シスイ様」
「う、ん。大丈夫、ありがとう珀」
「どう致しまして」
珀はまた転ばないようにとそのまま手を繋いでいてくれた。
* * *
昼。
久しぶりにオレンジタルトを作ろうと、最後に飾りつけるオレンジを切っていた時だった。
「いった…」
包丁で指を切ってしまった。
この作業で失敗したことなかったから、余計びっくりした。
「どうした?シスイ」
「あ、獅闇」
「ん?おま…切ってんじゃねーか」
獅闇はそれは流れるように私の手を取ると、その切れた所を自分の口に含んだ。
「ちょっと獅闇!汚いし、ちゃんとした消毒の仕方じゃないでしょう!」
「ん。止むを得ずってやつ」
獅闇はそのままチロチロと舐めると、ちょっと待ってろと棚から救急箱を取り出した。
何だか舐められたところが熱を持っているような気がして、少しドキドキした。
「貼っておくからな」
そして絆創膏を綺麗に貼ってもらう。
最近、獅闇も変だ。
妙に色気づいてるというか、何というか。
もともと彼には色気はあると思う。
だけど、それがさらに増している気がしてならない。
「気を付けろよ?」
ほら。
今だって、わざわざ私の耳元でその武器をフル活用して。
「ッ…」
ゾワゾワする。
私の顔はきっと真っ赤だろう。
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