珀の憎悪



珀の言葉にシスイは目を大きく見開いた。




昨日、珀の帰りが遅かったのは知っていた。
帰ってきたときのあの顔もちゃんと覚えてる。



苛立ちを必死で抑えるような、そんな顔。
瞬時にシスイは彼の変化を察知した。



そこでシスイは彼を問いただした。
一体、どこで何をして、どうしたのか。
まるで過保護の親のように。


そうして珀から紡ぎだされた言葉に耳を疑ってしまったのだ。




「来週末。チハヤ様と癸がこちらに来ます」
「何で・・父さんが・・・」
「何でも地方の仕事が一段落したようで、様子を見にこちらに来られるそうです」
「・・・・そう・・」



シスイとチハヤの関係は決して悪いものではない。
むしろとても仲が良い。
ただ珀と癸の関係が昔から酷く悪かったので、シスイはその心配をしているのだった。



「珀は癸に会っていたのね・・」
「はい。一足先に私に知らせに来ました」
「それで、癸は何て?」
「・・・それ相応の持成しをするように、と」



癸は昔から珀にだけ厳しかった。
きっと完璧にシスイを守れるようにという願望が強かったからだろう。
事細かに色々なことを叩き込んでは、珀を特訓していた。


だけれど、大人になった今。
癸には嫌悪しかない。
普段の彼からは想像が出来ないような形相で自分の父親を睨み付ける。



『ハク!!どうしてこんなことが出来ないんだ!!』



そうやって幼いころより厳しく接せられて来た彼のトラウマは未だに克服できていない。
癸を睨み付けて、殺気を当てることで自分の感情を押し殺しているようにもシスイには見えた。




「珀・・」
「はい・・」
「どうして断らなかったの」



シスイはどうしても聞きたかった。
そんなに嫌なら、殺したいほど憎いのなら。
どうして“来なくていい”と断らなかったのか。



「・・・これを機に・・私も前へ進まなければと・・」




珀はそう一言言っただけで、口を閉ざしてしまった。
だが、シスイにはその言葉に含められた全ての意味を悟っていた。

これ以上関わってこられると、自分がいつ殺してしまうかわからない。
そう珀の瞳が語っていた。


シスイも“そっか・・”と言ったきり口を噤み、立ち上がって歩き出した。



「!シスイ様・・どちらへ・・」
「紅茶を淹れてくるわ」
「それなら私が・・」



だが、シスイは即座に断った。



「いい。珀、貴方は少し頭を冷やしなさい。
そんな顔で下にいるあの子たちに会うつもり?」
「・・っ・・・わか、りました・・」



シスイはそう言って、自室を出て行った。
そこには拳をぎゅっと握って、何かに耐えているような珀の姿だけが残った。






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