悲痛な叫び



『―――さない・・・!許さない・・・!!』




「!!」

久しぶりだった。
悪夢に魘されるのは。

がばりと起き上がって、ふと枕元の時計に目をやると、まだ朝の6:30。
それなのに何故だか外が賑やかだ。

シスイは窓際に近寄り、外の様子を伺った。
どうやらこの声は雷と奏、そして牙のようで。
庭で何かをやっているらしい。



「朝から元気ね」



シスイはクスリと笑うと、机のイスに掛けてあったカーディガンを羽織り、そっと部屋を出た。



リビングに行くと、やはり珀がもう起床していて、朝食の準備に勤しんでいた。
味噌汁のいい匂いがリビングに充満している。



「!おはようございますシスイ様。お早いですね」
「おはよう珀。ええ、今日は何だか早くに目が覚めて・・」
「そうでしたか。では、只今モーニングティーのご用意を致しますので、掛けてお待ちください」



珀はそう言うとニコリと笑って、ティーポットの準備をする。
見ると、朝食の準備は粗方終わっているようで、珀は棚から茶葉の入ったビンを取り出していた。

シスイはいつもの定位置に腰掛けると、羽織っていたカーディガンを手繰り寄せ、ふと庭を見た。



「珀」
「はい?」
「雷達はこんな朝早くから何をやっているの?」
「何でも雷が”アイアンテール”を覚えたいらしくて・・」


朝から特訓しているそうですよ。
と、珀がティーカップを出しながら苦笑した。



「それで。強烈な”アイアンテール”を持っている奏と牙にコーチしてもらってるってことか・・」



奏と牙の”アイアンテール”はそんじょそこらの”アイアンテール”とは違う。
振り下ろすタイミング、威力、そして確実に急所を狙う命中率。
どれをとっても完璧といっていい彼らのこの技は他に真似できるものはいないだろう。


ふと、ストーブの前を見ると昨日貰い受けたタマゴが暖められている。
見ると異常はないだろう。
よかった。


それにしても今日は朝から寒い。
ミナモは海が近い所為か、潮風も相まって秋冬の朝は特に寒い。
いくら南のホウエン地方とはいえ、寒いものは寒いのだ。


するとコトリと目の前にティーカップが置かれ、
ふわふわと湯気が出ている。



「お待たせいたしました。今朝のモーニングティーはアッサムですので、ミルクティーにしたのですがよろしかったですか?」
「ええ。ありがとう珀」
「いいえ」


珀はまたニコリと笑うと、キッチンに戻っていった。



* * *



「いいかい、雷クン?アイアンテールってのはね、振り下ろすタイミングと狙う位置が重要になってくるワケ」


”understand?”


と無駄にいい発音で奏は人差し指を立て雷に説明する。
その隣では牙が腕を組んで、二人を見ていた。

どうしてこうなったのか。
牙はそれを順々に思い出していた。

そう。それは昨日の夜の話。



『ね、ねぇ奏、牙?』



珍しく雷が遠慮がちに二人に話しかけてきたのが始まりだ。
いつものように奏と牙は日課であるバトルをセンターのフィールドでやっていた。


『どうしたの?雷』
『どうした雷』



いつもならはっきりしゃっきり喋る雷がもじもじと言いにくそうに彼らを見上げたり、俯いたり。
実に滑稽な姿だった。
見かねた奏が牙に視線を向けた後、雷に視線を合わせ、再度どうしたのかと問うたところ・・・


『お、お願いがあるんだけど!!!』
『お願い?』


二人はキョトンとした顔で雷を見つめた。
雷は何でも自分でやり、実感を得て、悪かったところは自分で改善し、よかったところは更に上を目指すといった見かけによらず比較的自立タイプなのである。
そのため、あまりこういったことは人に頼らない。


幼いながらも、当時リーグの仕事で忙しかったシスイの手を煩わせないための考えに考えた手段である。


そんな雷の口から”お願い”の言葉を聞いた二人は少なからず驚いていたのだろう。
奏はニコリと笑って『何だい?』と優しく聞いた。



『ぼ、僕に”アイアンテール”を教えてほしいんだ!!』
『……え?』



この後。十分な間があって、ようやく我に返った彼らは雷に詳細を説明してもらうことになる。




『んじゃぁ、一回お手本見せるから、どんなのか見てみてよ』
『はい!!』


すると奏は強靭な尾を思い切り振り下ろし、目の前の岩を粉々に粉砕した。
タイミング、位置、威力。
全て完璧に計算されている。
これこそ、努力の賜物。
そしてシスイのトレーナーセンス。



『すげー・・・』
「雷」
『はい!』
「お前ならできる。俺と奏で徹底的に特訓するから、ちゃんとついてこいよ」
『はいっ!!』



そう返事した雷の顔は今までにないくらい輝いていた。
それを見た奏と牙はやれやれと肩をすくめた。







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