彼女の心中



上空。

風がシスイの髪を遊んだ。
ふと下を見れば、雲の切れ間から少しだけ青が見えた。
海だろう。

歌声の羽音は途切れることを知らず。
フライゴンの奏は疲れた様子を全く見せていない。

リーグに向かう道中。
シスイの思考はぐちゃぐちゃしていた。


(私はもうあそこを・・辞めたはずなのに・・)


リーグに囚われるのが嫌で。
家族達(ポケモン達)とのんびり生活したくて。

その旨をシスイはリーグ上層部に伝えた。
だが、リーグはそれを受け入れなかった。
『シスイ』という優秀な人材を失いたくはなかったからだ。
だが、彼女は諦めなかった。

来る日も来る日もその意を伝え続けた。

しかし、断固として上層部は首を縦に振らなかった。
そして、ついに強行突破に出たのだ。
リーグは数人の関係者を自宅に送り込み、
無駄な勝負を仕掛けてきた。

シスイの手持ちたちの弱点を確実につく汚い勝負。
次々と倒れていく仲間達にシスイは諦めるほかなかったのだ。

その時。

初めて抱いた憎悪の念にシスイはどうすることもできなかったのだった。



(この子達は・・私の命より大事な子達だから・・・)


だから、もう傷付けたくは・・なかった。





『・・・シスイ』
「・・!・・なぁに?奏」
『行くのが・・怖い?』
「え?」
『・・震えてるよ。手』


そう奏に言われ、ふと手元を見るとカタカタと自分の手が震えていた。


『俺はね、シスイ』
「・・・・うん・・」
『シスイが痛いって、辛いんだって顔を見るのが・・何よりも怖いんだ。あの時の顔がそうだったから』
「・・奏・・」
『シスイ、きっと責任感じてるんじゃない?
あの時、私の指示がちゃんとできなかったから・・とかさ』



奏はいつもより少しゆっくりめに飛びながら、時折シスイに視線をやって話を続けた。



『でもそれは違う。シスイの指示はいつものように的確だった。
だけどね・・あいつらが汚い勝負を仕掛けてきたから・・俺達はそれに気を取られすぎていた』


奏は淡々と話す。
シスイはそれを黙って聞いていた。
だが、奏のその声は今にも泣きそうで。


『だって・・ジュゴンの冷凍ビームを俺と牙に当てるなんてマナー違反だろ?
効果抜群だってわかってるからそんな事したんだろうけどさ。
案の定、予想もしない攻撃に俺と牙は倒れてしまったけど…』

だからシスイ。

奏はふと肩越しに彼女を見た。
かちりと視線がぶつかる。


『シスイがそんな顔する必要なんかないんだ。悪いのは全部あそこ。あの愚図野郎共の所為』
「・・・奏・・ありがとう・・」
『ううん。ホントはさ。きっとこれ珀の役目なんだろうけど。今回は譲ってもらうよ珀』


ふと奏はシスイのボールホルダーに視線をやった。


『・・・致し方ありません。今回だけ、ですからね奏』

と珀のボールから少しだけ悔しそうな声音が聞こえてきて、シスイは思わずクスッと笑みを零した。


『わかってるわかってる。少しは元気になった?シスイ』
「・・うん。大丈夫」
『よかった。・・お。えー・・まもなくトクサネ上空通過致しまーす』



奏の言葉の数々がシスイの心にすーっと染み渡っていった。

そう。大丈夫・・大丈夫。
私はまだまだやっていける。
この子達を守っていける。

そう新たな決意を胸にサイユウシティ。
ポケモンリーグ本部へと向かうのだった。


                                    〜続く〜



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