困惑



朝のミナモシティは比較的涼しい。
静寂がザザーっという波の音を目立たせた。



そんな清々しい街の少し外れたところに、少し大きめの屋敷が悠然と構えている。


そこには大きめの庭とオープンテラスがあり、シックな感じのテーブルとイスが置かれていた。



「・・はぁー・・・」


その女性は息を吐いた。
美しい黒髪が風に靡いて揺れている。


やがて目を通していた紙をぽいと放り投げ、眉間に手を当てる。
首はゆっくり後ろに傾き、天を仰ぐ。
ゆっくり瞳を閉じ、
目の前は闇しかなくなる。


すると、それを見ていた一人の青年がゆっくりと歩み寄り、彼女の前にコトリとマグカップを置いた。



「シスイ様」
「!・・珀(ハク)?」
「ハーブティーです。少しご休憩なさっては・・」
「うん・・ありがとう」


珀。
種族名はアブソル。
紳士的な彼は彼女――シスイのパートナーポケモンで彼女にとても従順なのである。


「・・やはりまたリーグに向かわねばならないのですか」
「うん・・・そうみたいね・・行かなかったらきっと・・また・・」
「・・・シスイ様・・」


リーグからの呼び出しは今に始まったことではない。
過去に何度かあり、それが嫌でシスイも何度か行かなかったこともある。
そうすると、リーグからの使いが強制的にこちらに来、向かうように仕向けられた。
ポケモン勝負でも何でもありな連中なのだ。



「もう・・あなた達を傷付けたくはないから・・」
「シスイ様。私達はシスイ様をお守りするために・・」
「違うよ珀。あなた達と私は家族なの、私だって家族のことを守るのは当然でしょう?」



主従みたいなこと、言わないで。

その言葉に珀ははっと目を見開くと、すぐに細めた。


「そうでしたね。申し訳ございませんシスイ様」


その言葉ににこりと笑い。
シスイはふと、視線を珀に向け、今度は庭で遊んでいる二人の青年に向けた。


* * *



「海輝(カキ)!いっくよー!!」



金髪と茶髪のメッシュが綺麗な少年。
彼はライチュウの雷(アズマ)。
元気いっぱいな少年だが、しっかりした性格で時には鋭い時だってある。


「ええ。いつでもどうぞ」


そんな雷の向かいで手を上げて待っているのは淡いピンクがかった髪を持つ端整な顔立ちの青年。
名を海輝(カキ)。
美しさが自慢のミロカロスだ。




「ただいま戻った」
「ただいま、シスイ」



暫くして。
淡い群青の髪と鮮やかな緑の髪が特徴的な長身の男性が二人、テラスに入ってきた。
ボーマンダの牙(キバ)とフライゴンの奏(ソウ)。
彼らもシスイの仲間である。



「ん?おかえりなさい、牙、奏」
「あぁ・・って、シスイ・・」
「シスイ、また無理してるの?」
「え?あぁ、大丈夫よ。何ともないから・・」


シスイは心配そうに見る彼らに笑顔を向け、少し冷めてしまったハーブティーを一口飲んだ。


「珀。シスイ・・」
「・・またリーグからの召集命令です」
「・・またか・・もう辞めたシスイに一体何の用があるというんだ」
「・・リーグも惜しい人材を逃して、相当焦ってるんじゃないの?きっとまたシスイを戻そうとしてる」
「恐らくは・・。しかし、シスイ様はもうお戻りにならないと何度も便りを送っているはずなんですが・・」


ふぅと珀は息を吐いて、お二人のお茶も用意してきますと奥に入っていった。
牙と奏はテラスのイスに座り、考え込む。


「牙、奏」


と。凛とした鈴のような声が彼らを呼ぶ。
二人はふっと顔を上げた。


「そんな深刻そうな顔をしないで。私なら何ともないんだから」
「・・・うん、ごめんシスイ。でもやっぱり心配だよ」
「ああ。またお前に危害を加える者が出ないとは限らないだろう?」


二人は眉根を寄せて、シスイを見るが。


「そう、ね。でも、こんな清々しい朝にそんな辛気臭い顔は似合わないわよ」



とシスイがいたずらっぽく笑うものだから、彼らも何も言えなくなってしまった。





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