どこの研究所も機材だらけなのか。

シスイはそう思いつつ、研究所にお邪魔した。
中では助手らしき人たちが研究に没頭している。



「さ、シスイちゃん。早速例のタマゴを見せてくれないかい?」



研究家魂が燃え滾っているのだろうか。
ウツギ博士は今まで見たことのないような張り切った表情で、シスイを見た。



その表情に変わらないな、ウツギ博士は。と思いながらシスイはバックからタマゴを出し、目の前の台にそっと置いた。




「これは・・随分真っ赤なタマゴだね」




ウツギ博士はそっと持ち上げ、耳を当てたり、色々な角度から見たりしていた。
シスイは今まで調べてきたことをゆっくりと話し出した。




「というわけで・・一番反応を見せたのは、うちの雷と珀がバトルをした時でしたね。
思うに、何かに怯えているようです」



シスイはウツギ博士の腕に抱えられているタマゴを見やり、そして彼に視線を移す。
ウツギ博士はうーんと考え込んでいる様子だった。



「シスイちゃんの推測はおおむね当たっていると思うよ。
本来、タマゴは手持ちに持たせて動いていると孵る。
だけれど、この子は中で著しく成長しているも何らかの理由で殻を破られないでいる。
どうやってこのタマゴを手にしたのか、リーグに聞かなかったのかい?」



ウツギ博士は静かにタマゴを置くと、徐にコーヒーメーカーへと向かっていき、コーヒーを淹れ始めた。
どうも研究家というのはコーヒーを好んで飲むようだ。
オダマキ博士のところの双子もよくコーヒーを飲んでいる。
周りにそういう人が多いからそう思うのかもしれないが。


そんなことを考えながら、彼女は返事をする。



「はい・・私もこれでリーグから解放されるとそればっかりでしたので・・詳しく聞いてこなかったんです・・」



しまった、と思った。
そうだ、どのようなルートでこのタマゴを入手したのか・・それが一番重要だったのではないか。
リーグのことだから、卑劣な手段で手に入れたことだって考えられるというのに。


シスイは俯き、自分の失態に唇を噛んだ。


コトリ。
すると目の前にほわほわと湯気が出た温かいコーヒーが出された。
それと同時にシスイのボールホルダーから開閉音が響く。



『シスイ・・!』



ぎゅっと腕に重みが掛かった。
視線を下に移すと、今にも泣きそうな雷がいた。



『またその顔・・!』
「雷・・」
「おや、雷君かい?僕が見たときは確かまだピカチュウだったような気がしたんだけど・・」



ウツギ博士はシスイの隣へ移動すると、屈んで雷を見た。



“ふむ、大きくなったものだね”
ははっとウツギ博士は苦笑して、わしゃっと雷の頭を撫でた。
雷は、はっとして、ウツギ博士の白衣の袖を引っ張った。



「わ!ど、どうしたんだい?雷君」
『は、博士・・!シスイに何ともないよって言って!!』




だが、勿論ウツギ博士にも彼の声を聞き取ることは出来ない。
彼は首を傾げた。
はて、彼はなにをそんなに懇願しているのだろうか。



「雷君?」
「雷・・」
『お願いだよ・・!シスイが・・そんな顔をするの・・嫌だ・・!!』



フラッシュバックされる辛い辛い記憶。
あの頃の弱き自分と目を覆いたくなるような惨状、そして彼女の表情(かお)。
雷はそれがありありと思い出されるから、大切な人が辛い目に遭うのは絶対に嫌だから。
そう思って、必死に博士に伝えていた。


するとまた開閉音が響いて、出てきたのはすぐに人型になった珀。




「お久しぶりです、ウツギ博士」
「はは、久しぶりだね珀君」



珀はウツギ博士と握手を交わし、雷をそっと彼女から離した。
わかっていると言うように、彼の頭を撫でながら。



「雷、私がちゃんと伝えますから」
『っ・・』



そんな珀を静かに見つめた後、雷は俯いて、その場に崩折れるように座ってしまった。
その目からは今にも涙がこぼれ落ちそうである。



「シスイ様の悔しそうな顔が嫌だって言っておりまして・・」


珀の言葉にウツギ博士はふっと考えて、ああと呟く。



「入手方法の事かい?それが聞けなかったからって、何もわからないってことはないよシスイちゃん。
大丈夫、だから悔やまないで」



ポンとウツギ博士はシスイの肩に手を置き、屈託のない笑みを浮かべる。
それにシスイは安堵の表情を見せ、ありがとうございますと返事を返した。

珀も雷の頭を撫でながら、微笑んでいた。




それから。
タマゴは暫くの間、ウツギ博士に預けることにしたシスイは、今日は研究所で一泊することになった。




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