「遊んで」と言わなくて…



「雷!待ちなさい!」
「えへへー!ぃやなこったー!」





【海輝・・】
【!雷・・どうしました?】



最近、遊んでって言わなくてごめん。
だから、さ。久々に一緒にお風呂に入ろう。


そう雷はうつむき加減に言葉を漏らし、ちらと彼を見た。
そんな雷の様子をぽかんと呆けて見ていた海輝は、やがてニコリと微笑んだ後“はい”と答えた。




* * *




「うわっ!ちょ、雷!ちゃんと髪の毛拭いて、服を着て!!」


奏の慌てた声がリビングに響いている。


数分後。
上半身裸で雷は風呂場からリビングまで走ってきた。
その後ろから海輝も同じ格好で雷を追いかける。
それを見て奏が驚く。



「ぶはっ!!ちょ、海輝まで!!ふ、腹筋!!」
「奏、意味わかんねーし、それに・・汚い」
「ご、ごめん獅闇・・」




飲んでいたお茶を思わず吹いてしまった奏は隣にいた獅闇に怪訝な目を向けられた。
それでも改めて奏は風呂場から走ってきた上半身裸の彼を見やった。


程よくついた筋肉の中でも特に目を引くのは綺麗に割れた腹筋だろう。
海輝は自分の容姿からなめられたくないと、暇があれば筋トレをしているくらいに、案外強い男なのだ。




そして鬼ごっこはまだ続いていた。



「雷!」
「あははー!捕まえてみなよ海輝ー!」
「・・困りましたね・・」



海輝はバスタオル片手に困り果てていた。
いつも結われている髪も今は下ろされていて、顔に掛かった前髪が余計困っているように見える。



「(そうだ…)」



と海輝は何かを思いついたのか、じっと雷を見た。



「!海輝・・?」



さっきまで自分を追いかけていた海輝が急に立ち止まったのを不思議に思い、雷も海輝を見た。
よく見てみると、海輝は今にも泣きそうな顔をしているではないか。



「か、海輝・・?!」



雷は思わず海輝に近寄り、顔を覗き込む。




「海輝?どうしたの・・?何でそんな顔してるの・・ってうわぁ!!」



チャンス到来。
雷は自分のそういった顔に弱いことを知っていた。
海輝はすかさず、雷をバフッとバスタオルで包み込む。



「はい、捕まえましたよ」



さっきまでの泣きそうな表情を一変させてにっこりと笑うと、海輝は雷の髪をやさしく拭きだした。
雷は頬を膨らませて、悔しそうにしていたが抵抗することなく黙って髪を拭かれている。





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