「ごちそうさまでした!!」
「ごちそうさまでした」
奏はソファを見て苦笑した。
「全然起きないね、牙」
「珍しいこともあるんだな」
獅闇も未だソファで眠る牙に視線を向け、食器を片付ける。
いつもなら気配でちゃんと起きて、皆と行動を共にする牙なのに、今日は珍しく深い眠りの淵にいるようだった。
余程疲れているのか、それとも。
「寝不足?」
「いつもの読書でしょう。昨日は私に本を数冊借りに来ましたから」
珀は食器を洗いながら言った。
ふーんと曖昧に相槌をうつ奏。
「シスイの昼食はどうしますか?」
「今の状況ではきっと人が来たこともわからないでしょう。
後で私が持って行きますから、鍋に蓋をして置いておいてください」
「了解しました」
そうして海輝はうどんが入った鍋にそっと蓋をした。
今日のお昼のうどんもシスイは結局食べずじまいとなってしまった。
* * *
買い物に行ってきますと珀は家を出た。
そろそろ家の食材が切れてきた頃だ。
市場に魚と野菜を買いに行く。
もちろん奏も一緒に。
「おやまあ!!奏ちゃんと珀くんじゃないか!!」
「こんにちは、タエおばさん」
「こんにちは、タエさん」
市場の野菜売り場にいる顔見知りのおばさん。
名前をタエと言って、よく奏と珀だけに野菜をおまけしてくれる太っ腹なおばさんだ。
タエおばさんが面食いでよかった。などと奏が思っていることはここだけの話。
「今日は何にするんだい?」
「大根と水菜を」
「珀、人参も買っておいたほうがいいんじゃない?」
「そうですね、では人参もお願いします」
「はいよ!!」
新鮮な野菜はタエの自家製。
農薬を使わない安全な野菜だという。
タエはテキパキと珀が言った物を彼が持っていたエコバッグに入れていく。
「ほれ、このトマトも持っておいき!今年はとても美味しくできたんだよ」
「おお!タエおばさん、太っ腹!!」
「いつもありがとうございます」
「いいんだよ!シスイちゃんにもしっかり食べさせてやんなよ!」
バンと珀の背中を思い切り叩くタエ。
珀は少々よろけながらも、ニコリと笑った。
そして代金を渡した。
「毎度!」
「トマト、ありがとう!おばさん!」
「いいってことさ!またおいでよ!」
「はい」
そして珀と奏は市場を歩く。
この市場は朝市もやっているが、大抵昼の方が賑わっている。
カイナシティの市場には劣ってしまうが。
するとどこからか悲鳴が聞こえてきた。
「きゃーー!!」
「「!!」」
珀と奏ははっと顔を上げ、お互い目を合わせてから走り出した。
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