とある訪問者。
「もしもーし・・」
朝からずっとシスイはタマゴにノックをしながら、耳を傾けている。
それを見ていたメンバー一同、ついにシスイの頭がおかしくなったのではないかと心配していた。
「もしもし?お返事していただけたら嬉しいなあ・・・」
「昨日まで全く動かなかったタマゴが急に喋りだすはずないだろ・・」
獅闇が水を一気に飲み干した。
さっきまで昨日の台風で大破した倉庫のドア修理をしていた獅闇は
頭にタオルを巻いた姿のまま、未だタマゴから離れないシスイを見やった。
雷もシスイの隣で不思議そうにタマゴを覗き込んでいた。
「でもシスイ、昨日声を聞いたんだよね?」
「ええ。“俺も早く・・”って微かだけど・・」
「やっぱきっと、この子だよねぇ・・」
雷もタマゴに耳をペタリとくっつけて“おーい”と話しかける。
だが、一向にタマゴが動く気配はなかった。
「気のせい・・かな」
「今は動かないだけで、きっと中では著しく成長しているのでは?」
珀が食器を拭きながら、聞いた。
シスイは曖昧に返事して、またそっとタマゴをストーブの前に置く。
「またこれは一から研究のし直しかな・・」
「あまりご無理をなさいませぬよう・・」
「わかってるよ珀」
とシスイはまた部屋へと戻ってしまった。
最近のシスイはずっとこんな感じだった。
タマゴの研究に没頭し、ずっと部屋に篭る。
就寝するのも深夜を回ってからで、いつ起床したのかわからないくらい部屋から出てこない。
この前、珀が紅茶を淹れて、彼女の部屋を訪ねると資料が机の上に山積みにされており、姿が見えなくなっているくらいだったという。
これではミシロの緑の彼らと変わらないなと思いつつ、空いたスペースに紅茶を置いた。
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