父と子



「いらっしゃい、父さん」
「ああシスイ。元気にしていたかい?」
「お陰様で」



彼女と一緒の黒髪を持った男性が彼女の家を訪れた。
シスイの父親、チハヤ。
職業は各地を点々とする医師。
それなりに名の通った人らしく、ここミナモでもチハヤは有名だった。



『あら!シスイちゃん!この前、チハヤ先生に見てもらったお陰でうちのエネコちゃん、元気になったのよー!今度会ったらお礼言っておいて頂戴ね!』
『はい、伝えておきます』



つい最近もそんな会話をしたばかりだ。
チハヤはポケモンにも人にも優しい。
そんな性格をシスイはしっかり受け継いでいた。



「入って、父さん。今日はどこに泊まるの?」
「いや、今日はもうすぐ出てシンオウに向かわなくてはならなくてね」
「そっか・・・じゃあお茶くらいは飲んでいってよ。皆も父さんに会えるの楽しみにしてたから」



シスイはチハヤの腕を取って、家の中へと促した。
チハヤはニコニコと笑い、“じゃあお邪魔するよ”と彼女についていった。

するとパカンとボールの開閉音が響いて、チハヤの隣に長身の男性が立った。



「久しぶり・・癸」
「お久しぶりでございますシスイお嬢様。
ご壮健そうで何よりです」
「うん・・癸も元気そうで安心したわ」
「私(わたくし)は丈夫なことだけが取り得の男で御座います故・・」



丁寧に頭を下げた珀の父親、みずのと
白髪を綺麗に結い、軍服のような服を身に纏う姿は貫禄がある。
よくよく見てみると、やはり親子で目元などは特に似ていた。



「癸は口を開けば、父さんの心配よりお前の事ばかり聞くんだよ」
「チハヤ様は私がいつもお傍におりますから、聞かずともわかりますがシスイお嬢様は目を離されると何をしでかしてしまっているかわかりませんから」
「あら、癸。私はもうそんな子どもじゃないのよ」
「私からしてみればまだまだ子どもです」



癸はニコリと笑うと、シスイの髪を撫でた。
シスイは目を細めて、気持ち良さそうにする。



「・・いらっしゃいませ、チハヤ様・・・父さん」
「やあ、珀。元気そうだね」



リビングの入り口から珀が姿を現した。
空気がいつもよりピリピリしている。



「はい、この通り病気もせず毎日元気に過ごしております」
「うん、そのようだね。顔色もいいようだし」



チハヤは珀に近づくと、そっとその色白の頬を撫でた。
珀も黙ってそれを受け入れる。



「どうぞこちらへ・・アフタヌーンティーのご用意が整っておりますのでご案内いたします」



珀はいつものように流れるような動作で軽く頭を下げる。
チハヤはありがとうとリビングに入っていく。
その後ろから整った姿勢で癸がついていった。
珀はずっと頭を下げている。



「・・・少しは成長したようだな、ハク」
「いつまでも昔のままだと思うな・・父さん」
「フン。俺はチハヤ様とお嬢様を失望させなければ、それでいい」



珀は頭を上げ、癸を睨み付ける。
だが、癸は眉一つ動かさず、珀を一瞥した後リビングに入っていった。

それをシスイは眉根を寄せて、見つめていた。







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