リビングに入ってみると、5人がトランプをして遊んでいた。
シスイはまっすぐキッチンに行くとティーポットを棚から出す。



「あれ、シスイ?」



それにいち早く気付いた奏が不思議そうにシスイを見た。



「なに?」
「紅茶・・淹れるの?」
「そうだけど?」



シスイはガサガサと棚を漁り、茶葉を取り出す。
お湯を沸かし、食器棚からティーカップを出した。



「珀は?」
「自分の部屋」
「…え?」




十分な間があり、加えて複数の声が重なったのを不思議に思い、シスイはリビングのテーブルにいる5人を見やった。


それもそのはず。
普段から彼はシスイに紅茶を淹れさせるなんて真似は絶対にしない。
まして自室に篭るなど以ての外だ。



雷の手からパサッと音を立ててトランプが落ちた。
だが、シスイはお構いなしに黙々と紅茶を淹れる準備をする。



「そこの5人衆。紅茶はいかが?」


「・・・・えーっと・・・俺はいいや・・」
奏は苦笑しながら答え、


「俺もいい・・」
牙は相変わらず無表情だが、声音は動揺しているようで、



「俺も結構です・・」
海輝も不思議で不思議で仕方ないといった様子で・・・



「ぼ・・・僕は・・・ミルクティーがいいな・・!」
雷に至っては必死で落ちた手札を集めている。



「珀、何かあったのか?」
獅闇は率直に彼女に聞いた。



そして“俺、一抜けな”と言って最後の手札を放り投げ、シスイを見た。
彼女はカップに紅茶を入れながら、困った顔を見せた。



「・・・シスイ?」



獅闇が心配そうに声を掛ける。
他の4人もただならぬ雰囲気を感じ取って、顔を上げた。




「トラウマって・・どうやったら克服できると思う?」




シスイはお盆を持ち、彼らに近寄りながらふと言った。
その言葉に奏はハッとして彼女を見た。



「・・シスイ・・・まさか・・」
「本当。聡い人だね奏は」



雷と獅闇の前にカップを置き、獅闇の隣に腰を下ろした。
ふっと階段のある方を見てから、また視線を5人に戻す。



「・・・チハヤさんが来るの?」



奏は真剣な表情になり、シスイを見つめた。
彼女はゆっくりと首を縦に振った。
それを見た4人は息を呑む。



「チハヤって・・・シスイの父親・・?」
「あら、知ってたの獅闇」
「あ、あぁ・・この前、牙に教えてもらった」
「そっか・・なら、話が早いわね」



そしてシスイはゆっくりと口を開いた。
珀と癸の関係を一つ一つ丁寧に獅闇に教える。
まるで珀が壊れてしまわないように守るように。



「癸さんは俺らには凄く優しい人なんだけどね。
どうも珀だけには昔の名残が消えていないと言うか・・」




そう奏はふっと漏らすように言う。
そんな奏に視線をやりながら、雷が俯いた。




「・・・僕が唯一嫌いな珀の姿だよ・・」



そして雷はふっと呟く。
海輝は神妙な顔をしながら、雷の綺麗な金髪をゆっくり梳いた。



「珀の癸さんに与えられたトラウマは未だに消えていないのです」



海輝はすっと目を閉じた。
その場の空気が少し冷えた気がした。


珀の憎悪。
皆の気持ち。




シスイはふっと目を閉じて、この場にいない相棒を思った。








〜続く〜





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