一方。
シスイはゆっくりと部屋を見渡す。
部屋には中央に台が置かれており、そこには包帯を巻いたルクシオがいた。
見ると恐らく男の子。
ルクシオは入ってきた気配に気付いて、ゆっくりと頭を上げた。
シスイは一瞬で感じ取った。
心を閉ざし、憎悪に駆られる瞳。
生きることを諦めたポケモンがそこにいた。
余程警戒しているのか、びりびりと電気を纏い、下手に動けば感電してしまうだろう。
目の前の彼はずっとこちらを睨み付けている。
シスイはそばに置いてあった丸イスを持ってきて、なるべく離れて座った。
彼はまだ彼女を睨んでいる。
『・・・何の用だ』
長い沈黙を経て、向こうから口を開いてくれた。
ワントーン低い声。確実に自分を射殺さんばかりとするオーラ。
「特に用はないよ」
『なら、さっさと出てけ。俺は人間となんか仲良くしねーぞ』
ハッと鼻で笑う彼を見つめつつ、シスイは話し掛けた。
「その怪我、人間にやられたの?」
『・・・ああ。ハンターに追われてる時にしくじった。幸い銃を使われる前に逃げてきたけどな』
ルクシオはこちらを見向きもせずに淡々と話した。
シスイはそれに耳を傾けつつ、話を続ける。
「そう・・君はシンオウから来たのかな」
『・・さっきから何だてめー。俺を捕まえる気なのか?』
ルクシオはぎろりとシスイをまた睨むと、バチバチと電気を弾かせた。
これは思った以上に心を閉ざしているようだった。
「捕まえないよ。私はここの主人から君と話す様に頼まれただけ」
『ハッ。あの白衣着たみすぼらしいオッサンか。勝手なことしやがって・・』
そう悪態つくルクシオをシスイは見た。
どうしても彼の心を溶かしたい。
彼女の血が騒いだ。
「みすぼらしいって・・あれでも結構有名なポケモン博士なんだけどな」
『そんなん知るか。人間界事情は俺らには関係ねぇだろ』
「それもそうか・・ま、私もあの博士にはほとほと困っているしね」
そう呆れ気味に言うと、案外ルクシオは話に乗ってきた。
『お前が?』
「ええ。これでも何回もあの博士に呼び出しされているのよ?」
『ふーん・・・お前、どこから来たんだ?』
「ミナモシティ。遠いでしょ」
そう言うと、ルクシオはけっと哀れなものを見るような目でシスイを見た。
それでもシスイはルクシオを見つめ続ける。
『・・・フン・・可哀想なヤツ。何でそんな律儀に来てんだよ』
「君と同じような境遇の子を救っているのよ私」
そう言うと、わずかにルクシオの目が見開かれた。
自分と同じような境遇。
人間に痛めつけられ、捨てられ。
幾度となくそんなポケモンを見てきたシスイ。
そしてその手で救ってきた。
『・・・てもいいか・・』
「うん?」
『お前なら、信じてみても・・いいかもしれねー・・』
そんなルクシオの言葉にシスイは安心したように微笑んだ。
そして丸イスを持って、彼が横たわる台に近づいた。
『お前、名前は?』
「シスイっていうのよ。よろしくね」
『おう』
案外このルクシオは人懐っこい性格のようで、シスイが手を出すと思いのほか擦り寄ってきた。
毛がふわふわしていて気持ちがいい。
「あのね、ルクシオくん」
『あん?』
「ルクシオくんは今日からここの研究所で博士の手伝いしてもらえないかな?」
ルクシオは首を傾げた。
可愛いと笑いそうになるのをシスイは堪える。
『手伝い?』
「そう!何か君は研究とか好きそうだし」
シスイは入ってきたときから気付いていた。
彼は無意識に部屋においてあるビーカーや試験管をしきりに見ており、自分と話している間もずっと目線は本棚の資料。
あぁ、きっとこの子はこういうのに興味があるんだ、と。
『俺がそーゆーのに興味あったって気付いてたのか?』
「ええ、何となくだけど、正解?」
シスイはちらりとルクシオを見ると、彼は小さく笑った。
そして少し顔を上げ、シスイを見上げた。
『おー。ま、いいか。そんなのに関われるんだったらいくらでもやるぜ』
「ありがとう。あ、でも!」
『何だよ』
「博士に会っても前みたいに電気発して警戒しないこと!いい?」
『りょーかいりょーかい』
そうして、ルクシオ基ライラ(博士命名)はこのオダマキ研究所で、助手として手伝いすることになった。
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