「まったく。呼び出しておいて、当の本人はまだお帰りじゃないなんて」
シスイは呆れたようにふっと息を吐いた。
その様子を見たネンリは申し訳なさそうに眉を下げた。
「すみませんシスイさん。博士には後できっちり言っておきますんで。
おや。新入りが増えました?」
さすがエスパータイプ。
ここに何度も足を運んでいるせいか、洞察力の優れている彼は、シスイのボールホルダーにある真新しいモンスターボールを見、即座に問うてきた。
「ええ。グラエナの獅闇よ」
と言い、シスイは彼をボールから出してやった。
すると獅闇はすぐさま人型になり、ネンリを見た。
「・・・シスイ、こいつは?」
「ここの研究所でオダマキ博士の助手してるサーナイトのネンリくん。とっても頭がいい天才さん」
「どうもこんにちは。ネンリです。よろしく」
「ああ、よろしく」
うっわ美声だなぁ・・とネンリは興味深そうに獅闇を見て、いかにも甘そうなコーヒーを啜った。
そういえば、いつもネンリの隣にいるもう一人の彼が見当たらない。
「あれ」
「ん?どうしましたシスイさん」
「チトセくんは?」
「あぁ。あいつはデートですよデート。ったく・・研究ほったらかして何やってんだか・・」
「で、デート・・!?」
あの真面目なチトセが。
チトセはエルレイドでネンリの双子の兄だ。
弟より研究熱心でオダマキの言うことは必ず聞く真面目な彼がデート。
シスイは驚きで目を見開いた。
「・・チトセくんっていうのはネンリくんの双子のお兄さん」
「ああ・・なるほど」
シスイはこっそり獅闇に説明した。
ネンリはガシガシと頭を掻き、困った顔を見せる。
博士はいない、唯一の相棒も何故かデートで研究を放り出している。
つまりここにはシスイ達を除けば、ネンリしかいないわけで。
ネンリはほとほと困っているらしかった。
「何か重要な仕事でも入ったの?」
「え、あ、博士ですか?
いや、来月までにカントーのオーキド博士に論文を送んなきゃならないって騒いでましたから。
こんなときまでフィールドワークをやっていていいのか不安で」
こう見えて、ネンリは研究が大好きで新しい研究材料が入ると、3日は寝ないという荒業を見せるくらいだ。
チトセには負けるが、彼も相当な研究馬鹿だろう。
またオダマキ博士も彼らがポケモンからの観点で研究してくれていることに対して、とても期待している。
彼らもそれに精一杯応えようと日々頑張っているのだ。
「ま、オダマキ博士なら大丈夫だと思いますけどね。今回は俺達は助けられませんから」
「助けられないって何かあんのか?」
今まで黙っていた獅闇が口を開いた。
「え?あぁ。俺とチトセは共同で博士とは違うテーマで論文を書いててな。
それを来月学会で発表することになっているから、今回ばかりは手が離せないんだ。
けど、チトセの奴が彼女にお熱なお陰で進むものもなかなか進まなくて…っ!」
顔に涙が見えてしまうような表情でネンリは嘆いた。
「チトセくんの彼女って?」
「この前、この近くで怪我して倒れてたムックルの女の子ですよ・・
チトセの奴が助けて、それで彼女が一目惚れしたらしくて。
彼女の猛烈アタックに折れてチトセも付き合うことになったんですけど。
今じゃもうラブラブで見てられませんよこっちは!!」
ぷんすかと怒り出すネンリ。
シスイと獅闇は一歩引いた目で近くに落ちてた紙をぐしゃぐしゃにするネンリを見た。
それってただ羨ましいだけなんじゃ・・・
とは言えず。
シスイと獅闇は目線を合わせ、お互いに苦笑した。
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