何かを揚げるいい匂いが漂ってきた。
それに白米の炊ける匂いも。
何だか最近和食が多いなと思いながら、シスイは傍らにあるブランケットを手繰り寄せ、肩に掛ける。
するとその時。
家の電話が鳴り響いた。
シスイは電話を取ろうとした珀を片手で制し、子機を取って電話に出た。
「もしもし?」
『やぁ、シスイちゃん。僕だよ、オダマキ』
「あぁ、どうもこんにちは。どうしたんですか?」
どうにも嫌な予感が拭えない。
シスイはそう考えながら対応する。
牙も珀も海輝も何故か作業を一時中断してシスイに注目していた。
『いやね、ちょっと意思疎通して欲しい子がいるんだよ』
「・・・・ええ」
『何だかリアクションが薄いね』
「そうではないかと予想していたことですし。それで?今回は」
シスイは淡々と返事をしていく。
その声音にオダマキはびくびくしながら続けた。
『う、うん。数日前に近くの草むらで倒れていたルクシオなんだけど・・
幸い怪我は何ともないんだけどね、警戒心が強すぎて近づけないんだ。』
「なるほど。また随分長旅をしてきた子なんですね」
ルクシオといえば、コリンクの進化系でシンオウのポケモンだ。
それがこんな南のホウエンまでどうやって来たのだろう。
おそらく獅闇と同じようにトレーナーに捨てられたのかもしれない。
最近はそんな無責任なトレーナーが多いなと思いつつ。
シスイは話を続けた。
『そうなんだ。だから、ちょっと・・・う、ん・・』
「私に出向けと」
オダマキの言葉を遮って、シスイは聞き返す。
自分でもわかるくらいに眉間に皺が寄っているだろう。
『ほら、僕もフィールドワークとかで忙しい…し…』
「それを言うなら私も色々と忙しいんです。
リーグからの最終任務を授かっていますし・・」
『そうだろうとは思うけど・・お願い!!シスイちゃん!!』
子機を強く握り締める。
本当に融通が利かない博士だ。
ただでさえ頭痛でイライラしているというのにこの男は。
でもポケモンに罪はない。
この博士が悪いんだ、この博士が。
シスイは博士に八つ当たりするように、「高くつきますからね」と一言言い、電話を切った。
「・・・あんの・・クソ親父・・・」
シスイはそのまま子機を若干乱暴に置くと、彼らに向き直った。
もう一度言うが、ポケモンに罪はない。
救えることなら喜んで引き受ける。
「シスイ様・・相手はもしかしなくとも・・」
「オダマキ博士ですね?」
珀はコンロの火を止めながら、海輝は大皿にサラダを盛りながらシスイを見た。
牙も無言でこちらを見ている。
「ええ。いつもの呼び出しよ・・」
はぁと深くため息を吐いた。
本当に頭を抱えたくなる。
「連れて行くのは珀、牙、そして獅闇。
後は留守番を頼んでいいかしら。タマゴもしっかり守ってもらいたいから」
「わかりましたシスイ」
「シスイ様。荷物を纏めておきます」
珀はいつものように2階へ上がっていった。
そんな珀の背にありがとうと礼を言うと、牙に向き直った。
「牙はミシロタウンまでお願いします」
「承知した」
すると案内が終わったのか、奏と雷と獅闇がリビングに戻ってきた。
「?慌しいね、どうしたの?」
「オダマキ博士からの召集命令」
「オダマキのおじさん、またかぁ・・・」
「それで、今回奏と雷と海輝はお留守番」
「ん!OK。タマゴは任しといて。海輝もいるから安心だし」
「りょーかい」
奏も雷も快く了承した。
獅闇は何が何だかわからない顔をしていたので、
シスイが説明は道すがらと言ってとりあえずボールに戻ってもらうように言った。
粗方準備が整ったころ。
食べ損ねた昼食は後でとることにして。
玄関前では牙がパタパタと羽を動かしている。
「じゃぁ留守番よろしくね」
「了解しました!!気をつけてねシスイ」
「気をつけて。タマゴはしっかり守っておくよ」
「うん!」
シスイは手慣れた様子で牙の背に飛び乗り、軽く牙の首筋を撫でた。
それを合図に牙は大きな翼をはためかせ、上昇した。
そうしてシスイ達は急遽、オダマキ研究所があるミシロタウンへと向かったのだった。
〜続く〜
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