通された病室に入ってみると、包帯で巻かれたグラエナがベッドに横たわっていて。
点滴の針がとても痛々しい。

ジョーイさんの話によれば、相当重傷だったらしく、内臓出血もしていたようだ。
だけれど、幸い骨折は軽度だったので退院までは然程掛からないらしい。

ありがとうございましたとシスイはジョーイさんにお礼を言い、ベッドの脇にイスを持ってきて座る。
奏も向かえに座り、珀は壁に寄りかかってグラエナの様子を伺った。


「・・・人間不信か・・」
「・・シスイ」
「見るからに人に及ぼされたであろう傷。
頭に流れ込んできた声は”許さない”とくれば、そうとしか考えられないよね」


シスイはそっとグラエナの体を撫でた。
彼女はよくポケモンを慰めるとき”撫でる”という行為をする。
それはポケモンに安心感を与え、大丈夫お前の居場所はここだと教えてやるためだと本人は言う。


するとピクリとグラエナの足が動く。



「!!」



そしてゆっくりと開かれる双眸。
うっすら紅い瞳。


『ぅ・・・こ・・・こは・・・』
「ミナモシティのポケモンセンター」


グラエナがゆっくりとこちらを見る。
かち合った視線。
その綺麗な紅い眼が次第に見開かれる。



『に・・・人間・・!!!』



一瞬で憎悪が表れる。
彼は自分の怪我もお構いなしに、シスイの手に思い切り噛み付いた。



「・・・・」
「シスイ様!!!」
「シスイ!!!」



赤い液体がベッドのシーツを染めた。
だが、シスイは顔色一つ変えずに自分の手に噛み付いているグラエナを見つめた。
グラエナは驚きで目を見開いた。



こいつは何だ。
この鋭い牙が自分の皮膚を貫いて、相当な痛みを伴っているだろうというのに、眉一つ動かさない。
まるで・・
こうなるのは当たり前なんだと諦めているかのように。



ウゥと唸っていたグラエナもそっと口を離すと、その傷口をペロペロと舐めだした。



「具合は大丈夫?」
『・・・ああ・・・お前が助けてくれたんだよな』
「そう。あなたの声は私にちゃんと届いていたよ」
『・・・一緒に今まで旅をしてきたトレーナーに捨てられたんだ。
お前は弱い。ただそれだけの理由で』


グラエナはぽつりぽつりと話し出した。
ポチエナ時代から切磋琢磨してきた優しいトレーナーだった。
到底捨てられるなんて考えはなかった。
グラエナに進化したときも一緒に喜んで、強くなろうと約束した。


だが、主人はある日、人が変わったかのように暴れだした。
その時一緒にいた仲間は皆殺された。
あの優しかった主人はどこにもいなくなっていて。
グラエナもその標的になり、必死になって逃げたがあの重傷を負わされた。



主人が暴れだしたのは「ストレス」によるものだとグラエナは考えていた。



「ストレス?」

グラエナは静かに頷いた。


『“うまくいかない、何もかもうまくいかない、どうしてなんだ”って俺を傷つけた時、そう叫んでた』
「・・・何かに追い詰められていたのかしら」
『わかんね…でも、俺はそんな主人の様子にも気付いてやれなかった』
『それから俺は負わされた傷もお構いなしにやっとこの港町までやってきた。
そこからの記憶は一切ない。気づいたらここにいた』


そうグラエナは語り、辛そうに顔を歪めた。
そんなグラエナの頭をシスイはゆっくりゆっくり撫でた。


「そう。頑張ったねグラエナくん」
『・・・あぁ・・・助けてくれてありがとうな』
「どういたしまして」


すると向かいに座っていた奏が軽くグラエナの頭を叩いた。
それに一瞬目を見開くシスイと珀。



「お礼もいいけど、まず謝ってグラエナクン。
辛い思いしてきたのはわかるけど、シスイに怪我させるなんて俺は許さないから」



あのまま噛み付いてたら、さすがの俺でもドラゴンダイブくらいは軽くいっちゃってたよ?



『ぽ、ポケモン・・?』
「ええ。フライゴンの奏よ。ちなみにこっちは私のパートナー」
「アブソルの珀と申します」


珀は至ってニコニコしているが、奏は眉間に皺が寄っている。
頭に怒りマークが見えそうだ。

グラエナは申し訳なさそうに耳を垂れ、すまんと一言謝った。
さすが大人な奏。
それでよし!と笑った。


「それでシスイ?」
「うん?」
「このグラエナクンどうするの?」
「それはグラエナくんに任せるよ」



シスイはグラエナに視線を向けて、頭を撫でる。


「野生に帰りたかったら、安全なところまで送り届けるし、
どこか人のいるところにいたいって言うんならオダマキ博士のところにでも
預けるし。君の判断でいいよ、グラエナくん?」



優しく、安心させるように体も撫でてやる。



『俺は・・』



グラエナは決心したように顔を上げた。



『お前のところに・・いたい』



紅い眼がゆらりと揺れた気がした。
あの時の映像と一致する。
助けを請う眼。


「ふふふ。もちろん私の家は大歓迎。ね、珀、奏?」
「はい、一部屋しっかり空いていますし。
何よりシスイ様の判断に異論は御座いません」
「うんうん。大人な彼が増えて、雷の面倒も海輝に任せっぱなしじゃなくなりそうだし!!」


奏は珀の肩に手を置いて、うんうんと再度納得した。
当のグラエナは安心したような顔を見せ、ありがとうと礼を述べた。



「退院は2日後。骨折は軽かったから、出られるのは早いって。
よかったね、グラエナくん」
『おう』
「それまで安静。ちょくちょく様子を見に来るよ」


グラエナは頷いた。

そしてシスイはセンターを後にして、帰宅したが。
そこで待っていたのは海輝のお説教と牙の無言の圧力。
そして雷の泣き落とし攻撃であった。




〜続く〜



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