ミナモシティの海岸。
そこは広く、夏になると大勢の海水浴客が訪れる云わば観光地。
今の季節は冬に差し掛かろうかという秋。
誰も泳いでいる人なんかいない。
強いて言えば、”かいぱんやろう”か”トライアスリート”ぐらいだろう。
そんな潮風も冷たい海岸にシスイは佇んで、目の前の光景に目を瞠らせた。
あの映像とシンクロする。
海岸の砂は夥しい(おびただしい)量の血で塗られ、そこに横たわるは漆黒と灰色の毛並みを持つプライド高きポケモン。
”かみつきポケモン”――――グラエナ。
シスイは駆け寄った。
衰弱しきっている。
これは一刻も早くセンターに運ばなければ・・・死ぬ。
シスイは到底止められるわけがない血を、やらないよりはマシだと自分の衣服を裂いて止血する。
それから傷に響かないように、ゆっくり己の背に背負わせ、センターへの道を急いだ。
”手術中”
そのランプが嫌に赤く光っているように見えた。
シスイはそのままセンターのロビーで彼の手術が終わるのを待った。
するとセンターの自動ドアが開いて、見知った顔が二人入ってくる。
「!・・・」
「見つけましたよ、シスイ様」
「くはぁー!よかった、シスイ無事だね」
我が唯一無二のパートナー珀。
それから、パーティー内で一番聡い奏。
「ここがわかったのね」
「ウチにはエスパーでもないのに、”視える”子がいるからね」
そう。
いつくしみポケモンのミロカロスである海輝は水タイプであるにもかかわらず、何故かヒンバスの頃より”視える”能力を持っていた。
失くした物を探す、亡くなった者の声を聞く。
そんな能力を兼ね備えていたので、シスイがどこにいるのかを微かにだが、透視することができたらしい。
「ご無事で何よりです。本当、部屋に貴女がいないのを発見した時は流石の私でも肝が冷えましたよ。
何かあったのですか?
貴女が私達に黙って部屋を抜け出すということは余程のことだったのでしょう?」
「・・・声がね」
「声?」
奏は私の隣に背もたれに体を埋めるように座った。
珀はいつものように背筋をピシッと正して、立っている。
「”許さない”って声が聞こえたの。
血濡れの映像と一緒に私の脳内に流れ込んできた。だけど、それは同時に助けを求めるような声だった」
「そう。それでその声の主が今、あの中ってワケか」
奏は未だに赤く点されている”手術中”の文字を見た。
珀はそっと彼女の隣に腰掛けた。
「そうでしたか・・・」
「言わなくてごめんなさい。あの状態なら貴方達は私を外には出してくれないと思ったから。
勝手に出てきてしまったの・・」
「お気に召さないでくださいシスイ様。これはシスイ様のお考えがあってのこと。
誰も責めはしません」
「そーだよ、シスイ。俺達は誰も責めない。・・・けど、ちょーっと焦った。
シスイが何かに巻き込まれているんじゃないかって・・」
と奏はシスイの肩に自分の頭を軽く乗せた。
シスイはその鮮やかな緑髪をゆっくり撫でた。
「大丈夫。私は何ともないよ」
「・・・ん。そうだね・・顔色も戻ってるみたいだし・・」
そしてあの赤のランプが消えた。
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