「シスイ!」
「ダイゴ・・」


追いかけてきてくれたのだろうか。
少し息が切れている彼を見、シスイは首を傾げた。


「どうしたの?」
「うん、ちょっと・・お茶でもどうかな、って」
「・・あなたはチャンピオンの仕事があるでしょう」
『そうですよ、ダイゴさん』


傍にいたメタグロスが呆れ気味に主人を見た。
そんなメタグロスを宥めるようにダイゴは彼を撫で、またシスイに向き直った。


「今日は挑戦者もいないし、少しくらいいいだろう?」
「・・・後で何言われても知らないから」
「大丈夫だよ」



そう言って笑ったダイゴは少し黒かった。



牙に乗り、再びミナモシティの自宅に帰ってきたシスイ一行。
そしてダイゴ。

テラスのイスに座り、シスイは手持ちたちを出してやる。
そうすると、彼らは一斉に人型に戻り、思い思いのことをして過ごす。


「よかったね、想いが通じて」
「・・ええ。最後の任務はタマゴを孵す事、か・・」
「それにしても四年は長いね」


珀が出してくれた紅茶を一口啜りながら、
シスイたちは話し始めた。

夕日を塗りたくったような赤いタマゴはほんのり暖かく、生きているのだと見て取れた。
そのタマゴを傍らに置き、シスイはそっと撫でた。


「シスイ」
「ん?」
「不安?」


君がそんな顔をするのは大抵何か思いつめているときだから。

そうダイゴは言い、シスイを見た。
彼女の顔は今にも壊れてしまいそうな、そんな顔で。


「確かにまだ生まれぬ命を預かることは責任重大だ。
もしかしたら死なせてしまうかもしれない。ただでさえ、四年というリスクを伴っているのだから」
「・・・・」


だけどね。

そう彼は続け穏やかに笑った。


「君にならできる」
「・・証拠は?」
「ないよ。だけれど、僕の直感は外れたことがなくてね」


エスパータイプ並みだよと笑う彼に毒気を抜かれて。
つられて彼女の顔にも笑みが零れた。

一つの命。
託された命。
それをゆっくりと撫でながら、


「早く出ておいでよ」


シスイはそう呟いた。


* * *


その後。

ダイゴはエアームドに乗って、ミナモの地を離れた。
トクサネの自宅に一旦戻ってから、リーグに帰るそうだ。

何だかドッと疲れが押し寄せたようで、
シスイはイスの背もたれに体を預けた。

それを心配そうに見る彼ら。
雷は寂しそうにポンポンとボールを突いている。
傍らには海輝が雷の肩に手をやりながらシスイを見つめていた。


奏も”今日のお買い得品は・・”なんて普段見もしないミナモデパートのチラシに目を通しながら、普段寄りもしない眉間に数本皴が寄っていて。
牙はいつものようにロッキングチェアに座り、コーヒーを啜りながら読書に勤しんでいる様だが、実際内容などまったく頭に入っていないようだ。

そんな中、珀はブランケットを持ち彼女に近寄った。


「シスイ様」
「珀・・?」


珀はブランケットを彼女の肩に掛けてやり、そっとその頭を撫でた。


「お疲れ様でございました」
「・・・・珀・・」


珀は穏やかな顔をしていて。
いつも自分を支えていてくれる頼もしい彼で。


「シスイ様、私達は全力であなたの任務をサポート致します」
「!珀・・」
「4年も殻に閉じこもるなど言語道断。シスイ様に失礼でしょう」


珀はシスイが腕に抱いているタマゴを見つめ、目を細めた。



「早く出ておいでなさい。シスイ様のお手を煩わせるのではありません」


そうまだ生まれない命に珀は容赦なく叱咤し、
”夕飯の買い物に行って参ります”とシスイの傍を離れた。

相棒には全てお見通しなようだった。
不安に思っていること、最終任務はそこまで甘くないということ。
それを踏まえた上で、彼は”サポートする”と言い切った。

本当、


「・・完璧すぎ・・珀」


よくここまで育ってくれたものだ。
私の子達は・・・



* * *



「あーあ・・また珀にいいとこ持ってかれちゃった。
シスイもあんなに嬉しそうな顔しちゃってさ」



そう言う雷の顔もさっきとは打って変わって、いつもの元気に満ち溢れている顔に戻っていた。


「仕方がないですよ、雷。シスイと珀は生まれたときからずっと一緒にいるんですから」
「そう、だね」
「だから、俺達はせめて彼女の支えとなり、そして時には矛となる」



彼女が壊れないように。
あの時のような顔をさせないように。



「うん。僕達はそれが役目」
「ホント、雷は大人になったねぇ」
「いつまでも子どものまんまじゃないんだからね、奏」


チラシに目をやっていた奏は視線だけを上げふっと笑った。


「そうだよね、ライチュウに進化した時点でお前は”大人”だもんね」
「もっちろん!」


雷はフェイントをかけるように持っていたボールを海輝に向かって思い切り投げつけた。



「っと!雷、危ないでしょう」



そして海輝もそれがわかっていたかのように、難なくそれを受け止めた。


「ちぇっ。今度は上手いくと思ったんだけどなぁ・・」
「でも、海輝にしてみたら雷はまだまだ”子ども”って感じだね」
「勿論」


にこりと笑う海輝。
すると家から珀がエコバックを持って出て行くのを見た奏は



「ハクー!!俺も行くよ!今日はにんじんとジャガイモがお買い得品だって!!」



と珀に駆け寄り、一緒に買い物に行ってしまった。



「ちょっと。海輝、どういうことさ?」
「どうもこうもそのまんまの意味ですよ」



ははと笑いながら海輝は雷の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「んもー!怒った!!今日こそキャッチボールで決着付けてやる!!」
「ふふ。望むところです」



そして二人の仁義なき闘いが幕を開けたのだった。




〜続く〜



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