長い廊下を歩き、一番奥にある荘厳な扉。
それをギギギ・・と開けると姿知らぬ影。
そしてダイゴ。
「やぁ。さっきぶりシスイ」
「ダイゴ・・」
「よく来てくれたシスイ」
姿は決して見せない本部の長。
威厳ある声が響いた。
「・・・もう私は辞めると申したはずですが」
私の可愛い子達をあんな目に・・・!!
これでもかというくらいに前を睨みつける。
「そう殺気立つな。お前がここに属したくない気持ちはよくわかっている。
あの時・・私達も少しやりすぎたな・・すまなかった」
「・・・今更何を・・!!」
ぐっと歯を噛み締める。
怒りで握った拳がわなわなと震えた。
そんなシスイの手に傍で控えていた珀がそっと擦り寄った。
シスイはハッと我に返り、ごめんね珀と彼の頭をひと撫でした。
そしてゆっくりと息を吐くと、声のする方へ向き直った。
「・・・それで。私に何か」
早く用を済ませて、この腐った場所から出て行きたい。
もう息が詰まりそうだ。
シスイは目の前の影を見据えた。
「シスイ・・最後の任務をお前に託す」
「!」
最後。
その言葉は少なからず彼女に歓喜を齎した。(もたらした)
「おい、あれを」
「はっ・・」
もう一人の見えぬ姿が目の前に差し出したのは、
「・・・タマゴ・・?」
鮮やかな赤色をした紛れもないポケモンのタマゴ。
「これを無事孵せ。それがお前に課す最後の任務」
「そのタマゴは生まれて4年経っている」
4年?!
その場にいるダイゴとダイゴのポケモンメタグロス、そして珀とシスイは一斉に息を呑んだ。
「何か理由があるのだろうが、それが未だに掴めていない。
原型のポケモンと話しができるお前なら・・それも可能にするだろうと思った。
どうだ・・頼めるか」
シスイはゆっくりとタマゴをその腕に抱いた。
暖かい。
まだ命の灯(ともしび)は消えていないという証拠。
シスイは慈愛の満ちた表情でそれを撫で、影に視線を向けた。
「お引き受けいたします」
「そうか・・では頼んだぞ」
「・・はい」
こんなところ早く出たい。
その思いが抑えきれず、彼女は踵を返した。
「シスイよ」
姿見えぬ声に呼び止められ、彼女は顔だけをそちらに向けた。
「・・本当にすまなかった・・・」
「!・・・もう・・済んだことですから・・
私の子達が受けた傷の痛みは・・・到底理解できないでしょうね」
失礼します。
彼女は言い、今度こそこの息苦しい部屋から出て行った。
「僕も失礼します」
そしてダイゴ達も彼女を追うように出て行った。
「・・・”痛み”か・・・」
厳かな声だけが、その場に木霊した―――
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