珀はベッドに寝ている彼女を見つめた。
傍らにはバシャーモ。

他の皆は、リビングで待ってもらっている。



待っている時間。
静寂。
全てに飲まれてしまいそうだった。



すると。



『キミが、ハク?』



バシャーモが口を開いた。



「ええ・・私がシスイ様のパートナーの珀です」
『そう・・ハクも俺を守ってくれてありがとう』




バシャーモはそう言い、仄かに微笑む。
優しい子だと思った。
正直な子だと思った。



「一つお聞きしても?」
『うん』



珀は、バシャーモを見た。
バシャーモも珀を見る。




「何故、4年もタマゴの中にいたんですか?」



バシャーモはその問いにふっと考え込む素振りをしてから、口を開いた。




『俺は…タマゴの中から見た外の景色が信じられなかった』




もっと楽しい世界だと思っていた。
しかし、目の当たりにした現実は甘くはなかった。



『傷つけ、争い、戦いが絶えない日々。そんな群れの中に俺は産み落とされた。
俺が想像していたものと大きくかけ離れていた・・・』




そんな世界の中で、俺なんか到底生きていけるわけないって、そう思った。



バシャーモはそう語りながら酷く辛そうな顔をしていた。
ふと手元を見れば、握りこぶしが震えていた。



「バシャーモ」
『だけど、シスイに引き取られて、もう一度・・・世界を見たくなった。シスイとなら見てみたいと思った・・・』



バシャーモはふとシスイの顔を見て、目を細めた。
そして、彼女の頬にそっと触れる。
先程より少しだけ顔色がよくなった彼女の頬はとても温かい。



『この人は・・俺の命の恩人・・・優しい心の持ち主・・』
「ええ・・シスイ様はとてもお優しい方。きっと貴方のことも大事になさるでしょう」
『よかった・・シスイが皆を大事にするように、俺もシスイや皆を大事にできるように頑張る』



バシャーモは珀にニコリと笑った。
表情を変えないものかと思っていたが、そうではないようで。


珀も薄らと笑いかけた。




そして目覚めの気配が。






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