鈍く、ぶつかる音が珀の耳朶に響いた。
嫌に大きく聞こえた。
シスイの身体がぐらりと傾く。
タマゴだけは渡さないとぐっと胸に抱えて。
ああ。あの悪夢はこういうことだったのか━━━━
珀は無事だろうか。
珀の気配を感じるから大丈夫だろう・・他のみんなは大丈夫だろうか・・・
考えているうちに彼女の身体は倒れていく。
後ろは崖。
「!!クロバット早くタマゴを奪え!!」
迫り来るクロバットから何とか逃げようと、シスイは離すまいとタマゴを抱え。
重力に従い。
落ちていく。
「みんなを・・・」
よろしくね・・珀━━━━…
海に落ちるあの音と。
シスイの言葉が、珀の胸に突き刺さる。
『シスイ様・・!シスイ様━━━━!!!!』
「くそ・・タマゴごとあの娘・・・」
男は悔しそうに顔を歪めた。
その姿を見た珀は怒りで身体が震える。
『貴様・・・許さん・・・・』
珀の低い唸り声が辺りに響く。
次の瞬間には。
ハブネークもクロバットもアリアドスも。
そしてあの男すらも。
傷だらけで倒れていた。
その時。
追っ手から逃れられた奏達が珀の元へ来た。
『珀・・?これは・・』
獅闇が周りの惨状に目を見開く。
雷は海輝の傍に寄り添っている。
不安気な顔で、彼らは珀を見ていた。
『珀』
奏が呼びかける。
『珀』
もう一度。
奏は彼の名を呼んだ。
珀はゆっくりと奏に顔を向けた。
この世の終わりのような顔をして。
珀は皆を見回した。
彼らは珀の顔に驚きを隠せないでいた。
奏は一言彼に聞いた。
『ねぇ、珀。
シスイは?』
ビクッと珀が少し震えたのを奏は見逃さなかった。
奏は珀に近寄り再度問う。
『ねぇ。シスイは?一緒にいたんでしょ?どこにいんの?』
奏はわかっていた。
シスイに何かが遭ったこと。
珀がそれを全て知っていること。
『シスイ様は・・・』
『あ、わかった。珀が逃がしてくれたんだよね』
『シスイ様は・・』
『で、どこに逃げてるの?シスイは』
奏はきょろきょろと辺りを見回して珀に問うた。
牙は、ふっと瞳を閉じる。
まるで全てを悟ったかのように。
『奏、皆、よく聞いてください・・シスイ様は・・・この崖から・・』
『もう言わなくていい…言わなくていいよ…』
奏は珀の言葉を遮って言った。
そして顔を歪めて、天を仰ぐ。
『珍しいね、珀。シスイを守れなかったの』
『・・・すみません・・・!』
ふっと息を吐く。
パタパタと奏は羽を動かした。
それを見守っている海輝、雷、獅闇。
牙は瞳を瞑ったまま微動だにしなかった。
『誰も責めちゃいない・・誰も・・。
ただ・・皆、責任を感じてる…』
奏は独りごちるように呟いた。
守れなかった。
助けてやれなかった。
俺達は何のための・・・
彼女を守るって約束したのに━━━━!
『俺らは・・・言葉だけで何一つ、彼女を…』
守ることができなかった。
涙を流す奏。
静かに頬を伝う涙。
海輝も同様に声を殺して泣いていた。
獅闇も牙も唇を噛み締めて。
今にも血が流れそうになっても噛み締めて。
雷も海輝に抱きついて・・
大粒の涙を流していた。
『っ・・・くそ・・・シスイ様・・シスイ様・・・・
うあああああああああああああああああ!!!!』
「グォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
アブソルの儚げな咆哮が悲しく木霊していた━━━━━…
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