救ってくれたのは。
何度も注意していた。
油断なんてするはずないと思っていた。
なのに―――――……
* * *
「クックックッ・・・本当にお前一人なら何もできないんだなあ・・!!」
後ろは崖で。
腕にはタマゴ。
目の前には━━━━……あの男。
「ここまで追い詰めるのに少々苦労したが…まぁいい。さぁ、そのタマゴを寄越せ」
足が震える。
どうして皆出払っている時を知って・・・!
「監視くらいつけているとは・・思わなかったのか?」
男はさも楽しそうにクツクツと不気味に笑う。
「絶対に・・渡さない・・・!!」
タマゴを持つ腕に力を込める。
男の顔色が変わった。
シスイを睨む。
「往生際が悪いな。やれ、ハブネーク」
じわじわと迫り来る恐怖。
珀━━━━!!
大きな雄叫び。
白銀の毛並み。
攻撃の瞬間を見せない・・その姿。
そしてかまいたち。
「またお前か…アブソル」
男は舌打ちをし、姿を現したアブソルを睨みつけた。
珀は無言で攻撃を繰り出す。
ハブネークは避けるので精一杯のようだ。
「チッ・・ちょこまかと・・」
シスイは叫んだ。
珀!!
『ご安心ください、シスイ様。貴女のことは何が何でもお守りいたします』
いつものしゅっとした瞳が、今日はやけに剣呑に煌めいている。
珀はすっと頭を垂れると、前に向き直った。
『シスイ様、ご指示はいりません。私一人でやらせてください』
最近はあまり見なかった。
珀の真剣な後ろ姿を。
シスイはええ、と一言呟くと、タマゴを抱え直した。
これは何が何でも私が守る。
珀が私を守ってくれているように・・
私も守らなければ。
珀はふっと息を吐くと前を見据えた。
“ご覚悟なさいませ”
そう呟いて、猛スピードで目の前のハブネークに突進していった。
狼狽えるハブネーク。
すかさず高く跳躍する珀。
しかし。
「ふん・・クロバット今だ。・・あの娘に“たいあたり”」
『!!!』
しまった。
彼にはクロバットとアリアドスのもう2体がいた。
「いいか、アブソル・・・相手はこのハブネークだけじゃないんだよ!」
男はにやりと薄気味悪い笑みを浮かべて大声を張り上げた。
珀は急いでシスイの所に舞い戻る。
間に合え・・間に合え間に合え間に合え・・・!
クロバットが先か、珀が先か。
『シスイ様!!お逃げください!!』
目の前に迫り来る恐怖というのは。
なかなか思うように身体が反応しないのである。
シスイも例外なく。
足が竦んで動けなかった。
『シスイ様!!!』
珀は目一杯叫ぶ。
シスイは身体が思うように動かなくて、久しぶりの焦燥感を覚えた。
「(こわい・・・怖い!!)」
思い出されるは過去のあの忌々しい記憶。
もう繰り返したくはない・・!!
「フッ・・終わりだ、娘」
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