庭では海輝と雷がキャッチボールをしていた。
二人の毎朝の日課といっても過言ではないキャッチボール。
だが、それはただのキャッチボールではないのだ。



「くっらえー!ハイパー雷ビーーームッッ!!!」



波動弾並みの超剛速球が雷の手から繰り出され、一直線に海輝に向かっていく。
だが、その張本人は平然とし、すっと片手を上げるといとも簡単にその剛速球を受け止めた。


「えぇぇぇ!!!」
「甘いですよ雷」



さて。海輝はすっとボールを持った手を上げると、そう呟き、


「雷、いいですか。これが真のキャッチボール・・・ですよっ!」


ごわっと目にも留まらぬ速さの球が放たれた。それは真っ直ぐに雷に向かっている。


「ぎゃあああ!!!」


そしてそれは雷の横を通り過ぎると後ろの壁にめり込んだ。
雷のひゅっと息を呑む音がした。


恐る恐る振り向くとシューと煙のたったボールが壁に挟まっている。
一気に血の気が引く雷。


「どうです?わかりましたか雷」
「わ、わかるもなにも卑怯だよ!海輝!!あんなの受け止めれるわけないじゃん!!」
「だから、言ったじゃないですか。これが真のキャッチボールですよ、と」
「い、意味わかんない!!」


わーわーと喚く雷を横目に海輝は何かを感じ取った。


「・・!」
「この気配・・・!」


すると海輝はミロカロスに、雷はライチュウに戻り、身構える。


「・・海輝?雷?・・・!」
「全く・・相変わらず嫌な気配だなあ…」
「・・あぁ。朝くらいゆっくりできないものなのか・・」


牙と奏も原型に戻る。
奥から珀も原型で戻ってきた。


『・・・朝から騒々しいですね。シスイ様にご迷惑ですよ・・・・・・・ダイゴ・・!』


ふっと上を見上げると、エアームドに乗ったダイゴがこちらを見下ろしていた。



『うげ。見下ろされると気分悪い!!最悪!!!シスイに近づかないでよね石オタク!!』



雷はスッとシスイの前に移動して守るように立ちはだかる。
その間にもエアームドは降下を続けている。



「だから・・行くって返事したわよ・・ダイゴ」
「ごめんね、僕もここまでしなくていいと上に言ったんだけど・・聞き入れてもらえなくて・・」



珀も雷の隣に移動し、ウゥと威嚇をしている。
雷もバチバチと電気を纏い、警戒している。


「ここまで歓迎されてないんじゃ、困ったね」
「・・・もう、みんな。いいよ。ダイゴも来たくて来たわけじゃないんだから」
「・・ふふ・・強ち間違ってはいないけどね」


個人的にはシスイにはいつも会いたいけれど。
そう呟き、ダイゴはエアームドから慣れたように飛び降りた。


珀、奏、牙、海輝が人に戻り、ダイゴを見据えた。


「本当だろうなダイゴ」
「当たり前だろ?僕だってシスイにここまでする理由がよくわからないんだから」


未だに警戒を続けている彼らに苦笑して、ダイゴは肩を竦めた。



その様子を見ていたシスイはどうぞ座ってと彼をテラスに案内した。
シスイは「彼にもお茶を」と珀に言うと、珀は「御意」とまた奥に入っていった。



「あら、雷。もういいのよ」

一人、原型のままの雷に首を傾げながら声を掛けると、雷は声を張り上げた。



『・・・・・ダイゴ!・・・もうシスイを自由にしてあげてよ!!』
「!・・雷・・・」


原型のポケモンの言葉を理解できない彼は少し首を傾げた。
それを通訳するように奏が口を開いた。


「(ダイゴ、もうシスイを自由にしてあげてよ!!)・・って」
「・・雷・・」



ダイゴは少し目を見開き、雷を見た。
すると、雷は人間の姿に戻り、ダイゴに掴み掛かった。


「ねぇ!お願いダイゴ!
シスイ、たった今シンオウのナギサジムから帰ってきたばっかりなんだ!
それでこの後サイユウまで行くなんて事になったらホントに・・・ホントにシスイ、倒れちゃうよ!!」

リーグを辞めた今でも、全国のジム周りは時間を作りながら行っていた。
それもそろそろ辞めようと彼女は考えているのだが。
そんな忙しそうに飛び回るシスイを見ているから雷はそれが心配で仕方なかった。

雷はそのままダイゴを揺さぶり、今にも泣きそうな顔で懇願する。


「雷・・止めなさい・・」


それを海輝が止めに入り、ゆっくりと雷をダイゴから引き離す。
雷は堪え切れなくなったのか海輝に飛びつき、肩を震わせて泣いていた。
海輝はポンポンと一定のリズムで雷の背中を叩く。


「雷・・泣かないで?私は大丈夫よ」
「ち、がうよ・・シスイっ・・・シスイの顔は大丈夫じゃないって・・・・!!」
「・・雷・・・」


すると、珀が戻ってきて、ダイゴの前にハーブティーを置いた。
ダイゴはありがとうと珀に小さく笑いかけた。



「・・・とにかくダイゴ。私は今からサイユウに向かうわ。その旨を上に伝えてちょうだいな」
「・・・うん、わかったよ。伝える。
それと・・・ごめんね、雷。僕もそろそろシスイを自由にしてあげたいんだ・・それだけはわかっていて・・」



ダイゴはハーブティーを何口か飲むと「ごちそうさま珀」と言い、すっと立ち上がりエアームドに跨った。


「じゃあよろしくねダイゴ。また後で」
「ああ、また後で」


そしてダイゴは急上昇し、去っていった。





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