俺らは市場に来て、目当ての物を買った。
それからシスイが手紙を出したいというので、ポストのあるところまでまた二人で歩いた。
気づけば季節は、夏になっていて、暑い日がここのところ続いていた。
市場も鮮度が落ないようにと、それなりの工夫をしている店も目立っていた。
そして今日も暑い。
「暑いわねー」
「ああ」
「獅闇?」
「ん?」
シスイは俺の顔を覗き込んだ。
やばい、また俺はシスイにそんな顔をさせているのか。
「どうした?」
シスイは瞬きをゆっくりした後、“ううん”と一言言い、また前に向き直った。
一体どうしたのだろう。
俺はそんな彼女の様子に首を傾げた。
「?」
「いや、本当に獅闇が元気になってよかったなって」
シスイは自分に改めて言い聞かせるような口調で話した。
俺が怪我をしている間はずっと、家の雰囲気は最悪だったという。
「雷は、いつもの元気がどっかに飛んでいっていたし、海輝も頑張って雷を慰めてたけどどことなく元気がなかったし」
珀もいつもの顔をしてたけど内心心配だったって。
それに奏も牙もいつものトレーニングに身が入らなかったって言ってたわ。
シスイは今だから話せるという風な感じで俺の顔を時折見ながら話していた。
そうか。俺はそんなにみんなに心配を掛けていたのか。
俺はなんだか申し訳なくなって、やや下向きに視線を変えた。
一瞬視界の端にシスイを映しながら。
「いつの間にか獅闇は私たちにとって欠かせない存在となっているのね」
もちろん私もトレーナーとして、家族として、貴方がとても大事なのよ。
なんだかその言葉に涙が出そうになった。
それをぐっと堪え、俺はバッと顔を上げた。
「ありがとな、シスイ。俺をあの時、拾ってくれて」
仲間にしてくれて。
そう俺は彼女に伝えた。
精一杯の感謝を。
シスイはクスッと笑って、いつの間にか着いていたポストに手紙を入れた。
「獅闇もありがとう。うちに来てくれて。実はね・・・」
あの時、本当は獅闇にうちに来て欲しかったんだ。
とシスイは言った。
俺は少し驚いた。
うちに、来て欲しかった・・?
「ええ。私はあの時、獅闇にどちらがいいか選ばせたよね。
野生に帰りたいか、人のいるところにいたいか。
けれど実は、私はうちに来たいって言ってくれるのを待ってたの」
シスイはまた小さく笑い、俺を見た。
「だから、お前のところにいたいって言ってくれたときは本当に嬉しかったんだよ」
シスイの微笑みは本当にいつ見ても綺麗だと思った。
今目の前で笑っている彼女を、守りたいと、今改めて思う。
「シスイ」
「ん?」
俺はシスイの瞳を真剣に見つめた。
「俺、お前を守るよ」
「え?」
「守る。珀達と一緒にお前を守るから・・」
シスイは一瞬目を見開き、また綺麗に笑う。
「ありがとう」
その言葉に安堵した。
そして俺も自然と頬が緩むのがわかった。
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