妙にべったりしてくるヤツがいる。
俺がトイレに行くにも、部屋に行くにも、後ろをてこてことついてくるヤツ。
「雷、どうした?」
俺はくるっと後ろを振り返ってその“ヤツ”に聞いた。
雷は曖昧な笑いをするだけで何も言わない。
困ったな。
俺は少々ボサついた自分の髪をくしゃりと掻きあげると、リビングに戻りドサッとソファに座った。
すると俺の後ろをついてきていた雷も俺の隣に座り、ぺったりとくっついてきた。
本当に雷のヤツどうしたんだ?
不審に思って彼を見てみると、なんてことはない。
普通のいつもの元気な雷の顔だ。
ちょっと悪戯心が沸いて、少し離れてみる。
案の定雷はそれに気付き、またぺたりとくっつく。
「雷」
「…なーに獅闇」
お、返事してくれた。
さっきから何も言わないのでちょっと心配していたが、返事をしてくれるところから機嫌が悪いわけではなさそうだ。
「どうした?」
「何が?」
「さっきから俺にべったりついてきてるだろ?」
鬱陶しくはない。
ただいつもなら海輝やシスイの所へ一目散なのに、今日に限って俺にべったりだ。
何か理由でもあるのだろうか。
「やだ?」
「は?」
「僕にべったりくっつかれるの、やだ?」
雷は俺の顔を覗き込んで、不安そうな顔をする。
ヤバい。
泣かせたら俺、お陀仏だ。
なので、俺は慌てて否定した。
「嫌じゃないよ」
「ホント!?」
「ああ」
そう言えば、雷は顔を輝かせて益々俺にくっついてくる。
お、重い…
これでもライチュウだ。しかも男。
人型になったってそれなりに体重はある。
俺に寄りかかった状態で暫く黙っていた雷だったが、やがてポツリと話し出した。
* * *
「どこかに行っちゃいそう、でさ…」
「…え?」
雷は自分の手を組み“かえるさんー”と俺に見せながら、また話す。
「獅闇、今にも消えそうだった」
「…」
「昨日、帰って来た時…獅闇、どっかに行っちゃいそうで…怖かった」
だから、どこにも行かないように僕が獅闇を見ていたかったんだ今日は。
と雷は俺の膝に頭を乗せてきた。
泣いてはいない。
ただ、雷の声が泣いていた。
俺は何ともいえない気持ちになって、ひたすら雷の頭を撫でた。
「行かない」
「…?」
「どこにも行かねーよ。シスイやお前達を置いていけるかよ」
「獅闇…うん!!そうだよね!!」
雷は俺の膝に頭を乗せたまま笑った。
それに釣られて俺も笑う。
そう。
俺はどこにも行かない。
行けない。
大事なアイツを置いて、どこに行くというのか。
俺はふっと息を吐くと、窓の外を見た。
少し曇った空。
ひと雨来そうだな。
と、再び雷に視線を戻すと雷はもう夢の中だった。
ったく…
「膝痛くなるっつーの」
だが、雷を見ていたら急に俺にも睡魔が襲ってきた。
「あー…ねみーなあ…」
瞼が急激に重くなって、俺はそのままそれに身を任せた。
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