どこかに行ってしまいそうで。



「た、だいま…」
「うわああああん獅闇ーー!!」


昼過ぎ。
雷の泣き声が家中に響き渡った。


* * *



昨日、キャモメの強烈な突進で結構な痛手を負った獅闇は、意外にも次の日すっかりよくなって家に帰って来た。


いつものように玄関のドアを開けて家に入る。

そして冒頭。



思い切り獅闇に抱きついた雷の顔は涙でぐちゃぐちゃ。



「ぼ、僕…ほん、とに…っひっく…!!心、配っ…してっ…!!」



嗚咽で言葉が途切れ途切れだが、
獅闇には雷が何を言いたいのかしっかり伝わった。


獅闇がいない間も人一倍人の心配をする雷は、
どことなく落ち着きがなくて、ずっと海輝に宥められていた。



「ああ…悪かった、雷」
「“悪かった”じゃっ…ないっ…でしょっ…!!」
「…そう、だな…」




ありがとう、



獅闇はそう呟くと、未だ抱きついて離れない雷の頭をくしゃっと撫でる。
そして後ろに視線をやった。
奏は獅闇に近づくと、ポンと肩に手を置いた。




「おかえり、獅闇」
「奏…助けてくれてありがとな」
「どう致しまして…って言いたいところだけど獅闇の危険を察知したのはシスイだから、お礼は彼女に」



奏はリビングに入るよう獅闇を促した。
獅闇は奏について、未だ離れない雷を引っ張ってリビングに入っていった。



「おかえりなさい、獅闇」
「傷はもう大丈夫なのですか?」



海輝と珀が形のいい眉を寄せ、心配そうに聞いてくる。


だが、獅闇はふっと笑って“大丈夫だ”と一言告げた。
そして彼はまっすぐ彼女の元へ。




「シスイ…」
「…」



シスイはゆっくり顔を上げ、獅闇の漆黒の双眸を見つめた。
彼もまた然り。

シスイの青みがかった黒の瞳がゆらりと揺らいだ気がした。

獅闇は彼女が今にも消えそうに思えて。
咄嗟にその華奢な身体を掻き抱いた。




「っ獅闇…」
「約束…破って悪い……」



その切なそうな、悲しそうな声でシスイの涙腺は限界を迎えた。
大きな瞳から止めどなく涙が零れ落ちる。

ポロポロ、ポロポロ。

獅闇の肩を濡らした。

獅闇の背中に腕を回すと、シスイも彼を思い切り抱きしめた。




「貴方が無事で…よかった…」
「…ああ、ありがとう…」



決して怒らない彼女。
勿論約束を破ったことはいけないが、シスイの中では彼等の無事が最優先だ。



ああ、彼の心臓がちゃんと動いてる。


そう思い、シスイは縋りつくように泣いた。





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