「!」



シスイは何かを感じ取り、顔を上げ窓の外を見た。


第六感が何かを告げている。



シスイ…



声が聞こえる。
この声は――…

シスイはばっと顔を上げると、珍しく大声を上げた。




「奏!早く!!」
「え・・?」
「いいから早く!!お茶碗置いて飛んで!!場所はトクサネとミナモの間!」
「あ、う、うん!!」



奏は一瞬でフライゴンに戻ると、凄いスピードで窓から外に出て行った。
ただならぬ雰囲気にその場にいたものたちは息を呑んだ。
そしてシスイを見た。



「シスイ様?」
「…獅闇が…」
「シスイ・・?」
「獅闇?」



雷がお茶碗を持ったまま、彼女の顔を覗き込んだ。
焦るようなそんな顔。

海輝と珀は顔を見合わせると、またシスイに目を向けた。



彼女の手がカタカタと震えていた。




* * *






『獅闇―――!』



牙の叫びが木霊した。
空気さえ震えた気がした。



黒い体躯が落ちていく。
獅闇の意識は朦朧としている。



『(やば…体が…動かねー…)』



当然翼がない彼はどうすることもできず、そのまま目を閉じようとした時だった。
ふわりと何かの上に落ちた。
凄い勢いで落ちていたはずなのに。
まるで真綿の上にでも乗ったような。


獅闇はうっすらと目を開けた。
緑の体。
綺麗な歌声のような羽音。


俺は知っている。
この色の人を…ポケモンを…




『ちょ、どういうこと!?獅闇!大丈夫!?』
『そ…う…』




すると奏の頭上から猛スピードでボーマンダが降りてくる。
それを見つけて、奏は彼の名を呼んだ。



『牙!』
『!!奏…!!』



滅多に見ない切羽詰った牙の顔。
普段息切れなんてしない彼が肩を上下させて息をしている。

奏は目を丸くした。
そしてふと真剣な表情をして、牙に向き直った。



『何があった』
『…話せば…長くなる』
『じゃあ帰ったら。なんとなく予想はつくけどね』



シスイ、すごい顔、してたよ。



奏は牙をひと睨みした。
誰であろうと主をあんな顔にさせることは許さない。


牙も奏の考えがわかっているからこそ、悔しそうに顔を俯かせ、歪めた。
何があっても無理だけはしないで帰ってくるように。
そういう約束のはずだったのに。


奏はしばらく牙を見つめると、身を翻した。
背中にいる獅闇の傷に響かないように、ゆっくりと進みだした。


それを後ろから牙がついていく。
その顔は今までにないほど焦っていた。






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