朝食も終わって、一息ついている頃。
庭では恒例のキャッチボールが繰り広げられている。
この前やっと海輝のボールがキャッチできた雷は力も付き、最初の頃よりキャッチボールの凄さが増していた。
目にも留まらぬ速さで行き交うボール。
塀の焦げ目も少なくなった。
「へっへーん!」
「俺もまた鍛えなきゃ駄目ですね」
「いやいやいや、海輝はもういいよ!
それ以上筋肉つけてどうすんのさ」
今日は奏も参加していて、それを傍から見守っているのは牙と獅闇。
シスイはテラスのイスに座って、紅茶を啜っていた。
「お疲れ様、珀」
「はい、ありがとうございます」
食器を洗い終わった珀が手を拭きながら、テラスに来た。
そしてシスイの隣に座る。
「シスイ様」
「ん?」
「今日は少し起きるのが遅かったように思えるのですが…何かあったのですか?」
言うか否か。
シスイは珀に何か聞かれることはわかっていた。
だが、本当にあの夢の内容を言ってもいいのか。
シスイにはそれを言ってはいけない気がしたのだ。
根拠はない。
だけれど、彼女の中の何かがそう告げていた。
「夜遅くまで読書しててね」
「昨日、シスイ様のお部屋の電気は11時で消えていましたが」
・・・何ということだろう。
ますます嘘がつけない。
シスイは珀に気付かれないようにそっと息を吐くと、また言い訳を考える。
「寝たのが早かったせいか途中で起きたのよ。
それから目が冴えてしまって、読書していたの」
「今日、朝お部屋に伺ったところ、いつもの本は本棚でしたが。
シスイ様は本をお読みになったら必ず目の前に置く癖がありますでしょう」
イスもキチンと机に仕舞われておりましたし、ベッドサイドに本も置かれておりませんでしたしね。
珀はそう言って、少し困った顔をした。
ああ。
そうだ、朝の悲鳴のせいで珀が部屋に来たんだ。
だが、何でそんな短時間で本やイスの位置まで把握できるのだろう。
「シスイ様」
「…うん?」
「何に怯えているのかはわかりませんが、どうぞこの珀を頼ってください」
私はそれが何よりの望みです。
珀は流れるように自然な動作でシスイの手を取ると、ぎゅっと握った。
そして細く長い指が彼女の手を滑る。
「は、珀・・!」
「はい?」
「ち、ちょっと聞いてくれる?」
恥ずかしさが隠すように声を上げたシスイ。
上ずってはいなかっただろうか。
シスイはそう考えながら、ぽつりぽつりと先ほどの夢の内容を話し出した。
「なるほど…」
「ちょっと胸騒ぎがね」
「シスイ様の勘は無視したら大変なことになりますしね。
わかりました、私が注意して見ておきます。
・・・シスイ様、はっきりと申してもよろしいですか」
「う、うん。なに?」
きっとその“何か”はタマゴでしょう―――
珀は真剣に、しっかりとシスイの目を見て言った。
珀の言葉がドーンと頭に直接入り込んできた。
何故だろう。
シスイの心に一抹の不安が過ぎった―――……
〜続く〜
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