悪夢
脳内に直接響くような、
声。
崖。
ゾッとする様な高さ。
そして――――…
落ちる。
“いや……嫌━━━━!!!”
「!!!!」
ガバッと起き上がる。
物凄い量の汗。
バクバクという心臓の音がいやに耳朶に響く。
シスイは深呼吸をして、息を整えた。
何だったのだろう。
あの夢は。
自分は何故か崖に立っていて。
何かを守るように、ぎゅっと腕を胸の前で組んで。
だけれど、その“何か”はわからない。
ぼやけてて、見えなかった。
そしたら急にその“何か”がすっと腕から抜け、崖から……
考えただけでもゾッとする。
シスイは頭を大きく横に振って、振り払うようにする。
何もない、そう、何もないんだと自分に言い聞かせるように。
落ち着いたところで。
何故かさっきから自分の下半身が重いような気がして、ふっと下を見た。
「う〜・・ん〜…」
緑色が特徴的な頭。
ちゃんとパジャマではなく服を着てる。
極めつけは首元のゴーゴーゴーグル。
「き…」
「うー…ん・・?あ、シスイ…起きたんだ…おはよー…」
珍しく。
シスイの悲鳴が家中に響き渡った。
* * *
「奏…?」
「ふーん?奏ってばそんなに死にたいんだ?」
早く言ってくれれば僕が楽に逝かせてあげたのに。
早朝のシスイの家にこんな物騒な台詞が飛んだ。
目の前では正座している奏と上から躊躇いもなく黒いオーラを浴びせる珀と雷の姿。
あれから、シスイの悲鳴を聞いた珀がすぐさま彼女の部屋に飛び込み、そこにいた奏を摘み出した。
それから事情を聞いた他のメンバーははぁとため息を吐いたが、黙っていられない人たちもいるのだ。
「奏?どういう経緯であんなことに?」
珀はニコニコと無言の圧力をかける。
その隣では“こわいかお”以上に怖い形相をした雷が奏を見下ろしていた。
「シスイの部屋に入り込むなんていい度胸してるよね。
ふふふ。奏にはやっぱり一回痛い目にあうべきだと思うなあ。
さぁ。
歯ァ食いしばれ?」
部屋の温度がすっと下がる。
雷の隣にいた珀もいつの間にか彼の迫力に圧され、さり気なく獅闇の隣に移動した。
「ブラック雷発動、だな」
「え、ええ…あれだけ怒ってくれているんですから、私は必要ないですね」
しかしこっちはこっちで誰の所為だとか言い合いが始まってしまった。
けれども今はやはり目の前の光景を止めたほうがいいのではなかろうか。
あのままだと真面目に奏が死ぬ。
隣でがやがやと話し合いをしているのをBGMに獅闇は一人そんな事を思っていた。
「シスイ」
「ん?なに?獅闇」
「早く、あれ止めてやれ」
見ていて、いい加減奏が哀れだ。
獅闇は指差し、いつものやる気ない感じでソファにボスッと座った。
何てったってとばっちりだけは御免蒙りたい。
獅闇ははぁとまたため息を吐くと、暖かい朝日が差し込む窓から外を眺めた。
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