「シスイ様、ホットココアです」
「ありがとう珀」



ふわふわと湯気の立つカップを両手で持ち、
ゆっくりと口を付ける。
甘く、そして少しほろ苦いカカオの味が口いっぱいに広がった。



「おいしい・・」
「ありがとうございます」


珀はいつもの綺麗な笑みを浮かべ、またキッチンに戻っていく。



『シスイー!ブラッシングして!』



と雷はブラシを片手に、シスイに近寄った。
彼女の趣味と言っても過言ではないブラッシング。
それはなかなか上手で、雷は彼女にブラッシングをしてもらうのも大好きなのだ。



「ふふ、いいわよ」



シスイは微笑み、雷の綺麗な毛をゆっくりと梳いていった。
気持ちよさそうに目を細める雷。
そんな姿にふふっと思わず笑みが零れてしまうシスイ。


可愛いなあ。


そう思いながら、ブラッシングを続けた。




後でみんなにも、と言いかけたとき。
リビングのドアが大きな音を立てて開いた。

その音に、思わずシスイもブラッシングする手を止めて、そちらの方向に顔を向けた。




「奏、ドアが壊れるだろ」



奏の後ろにいた牙に注意を受けるが、聞いているのかいないのか。
奏は一目散に食卓へと向かい、ポンとタマゴを置いた。


それに目を見開く一同。



そして奏はやっと口を開いたかと思ったら一気に喋りだした。


「今、今ねウツギ博士んとこのムクホークが来てこれを持ってきてくれたんだ!
何でもまだ産まれないらしいんだけど絶対産まれるからだって何でも向こうでもガタガタ動いていたんだけどでも何かすごい怯えてるらしくてやっぱり俺怯えてる原因探ったほうがいいと思うんだよね!!!」




まさにマシンガントークといっていいだろう。
その場にいた者みんな、何故か一発ずつ奏を殴る。


「え?!な、何?!俺、何か間違ったこと言った?!」



シスイは苦笑して、奏を見た。



* * *




「奏、早口過ぎて何言ってるかわからないわ」
「え・・あ、ごめん・・」



そしてその後牙が奏の言ってくれたことを要約して話してくれて、手紙もシスイに渡した。


それを聞いたシスイはホッと安心した様子で、ありがとうと奏と牙に言った。
珀はそのタマゴをタオルに包むと窓際に置く。



「シスイ」



牙が少し不安そうな声音を出したのにシスイは少々驚きながらも、“なぁに、牙”と彼を見つめる。



「頼みがある」
「ええ、なに?」



牙はすっと息を吸い、静かに口を開いた。



「もう部屋に篭るようなことはしないでくれ…」



前にシスイがタマゴの研究のため、数日部屋に篭りきりだったときの話をしているのだろう。



その時、牙達は言いようのない不安に駆られ、毎日彼女が心配で仕方なかった。
もうそんな気持ちになるのは嫌だ。


牙の切実な思いに他の者達も頷いた。



「これは俺だけじゃない。この場にいる皆の願いだ。
熱心になることは悪いことじゃない。
だが、心配するのはシスイだけじゃないということを覚えておいて欲しいんだ」



お前が俺達を心配するように、俺達もお前を心配する。


牙はそう言い、今日は奏の所為で疲れたから寝ると部屋に戻っていってしまった。



「・・・・」
「シスイ様、牙は貴女を責めているわけでは……」



そんな珀の言葉を遮るように、そして彼らを安心させるようにシスイは言った。


「わかっているわ、付き合いが長いんだもの。でもちょっとあれは考えなしだったね、ごめんなさい。もう篭らないから、安心して」



シスイは微笑んで、近くにいたライチュウ姿の雷の頭を撫でた。
それを見た他の者達も安堵の表情をした。





そして彼女は他の子たちにもブラッシングをするのだった。











〜続く〜



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