返ってきたタマゴ



「牙!止めのドラゴンクロー!!」



渾身のドラゴンクローが相手のゴルバットに直撃し、ゴルバットはひらひらと落ち、目を回した。



「ゴルバット戦闘不能、よって勝者ボーマンダ!・・ってね」
「ゴルバット!」



少年がゴルバットに駆け寄り、抱き上げる。
“ゆっくり休んでね”と彼はゴルバットをボールに戻し、奏に向き直る。



「ありがとうございました、これ賞金です」
「おー!ありがとー」
「強いですね、貴方のボーマンダ」
「いやあ、それほどでもー!」



奏がわざとらしく照れながら言うと、隣にいた牙はその強靭な尾で、奏の背中を思い切り叩く。



「い゛だっ!!!」
「・・?」
「な、何でもないよ・・・」



では失礼します!

と少年はそそくさと去っていった。



* * *




「何も叩くことないんじゃないの」



奏は牙に叩かれたところを摩りながら言った。
そんな奏の姿を横目に、牙は実に不愉快だと言わんばかりに眉根を寄せた。



『お前のボーマンダじゃない、俺は“シスイの”ボーマンダだ』
「へーへー知ってますよー・・俺だって“シスイのフライゴン”だ」
『いい加減、こんな金稼ぎを止めたらどうなんだ。
俺はお前に指示を出されるのが非常に不愉快だ』



牙は“非常に”を思い切り強調し、フンとそっぽを向く。


確かにポケモンがポケモンに指示を出している姿は酷く滑稽。
だが、今まで戦ってきたトレーナー誰一人として、奏がポケモンだと気付く者はいなかった。



よって。



「俺がポケモンだって気付いた人いないんだから、いいんじゃない?それにファイトマネー、ちゃんと牙と半分こしてるじゃん」




ほら、今回だって大量大量と袋に入ったファイトマネーを牙に見せた。
そう得意げに言う奏に牙は呆れて物も言えないようだった。
そんな心中を知ってか知らずか。
奏はなおも言葉を続けた。




「あ、もしかして俺ばっか指示出してるから嫌になったんでしょ。それならそーと言ってよ、じれったいんだからー」
『死ね』



耐えに耐えかね。
牙は暴言を吐き、奏の背中目掛けてまたブンと尾を振り回す。
だが、奏はバック転をしてそれを難なく避ける。



「二度も同じ手は通用しないぜ?」
『調子に乗り、過ぎ、だ!』



牙は奏の後ろにあった木に今度は尾を振り下ろす。
それを見ていた奏はにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。



「なーにやってるのかなー牙クンは。遂に感覚が麻痺して・・・・・・」



途端。
土砂降りのように水が奏の頭に降りかかった。



「ぎゃああああ!!」
『フン。昨日は雨が降ったからな』


今度はニヤリと笑う牙。
ポタポタと髪から水滴が落ちている奏。
ぶすっとした顔をして、無言で牙をぶっ叩く。



『・・・ハッ』
「あーくそ、むっかつく。してやられた」
『日頃の行いのせいだろ』
「俺はいい子ですけどー」



奏は頬を膨らまし、抗議するがまったく彼には伝わっていないようで。
当の本人は飄々とそれを受け流し、相手にしていなかった。




と、その時。






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