「・・・・・」



雷はソファの上で体育座りをしたまま、動こうとしなかった。
その顔は今にも泣きそうだ。


雷は人一倍、責任感が強く、
案外気持ちの浮き沈みが激しい。


今回もやっぱり獅闇が風邪を引いたことで、自分を責めているようだった。




「やっぱり・・」



奏は呟き、困った顔で彼を見つめた。
隣にいる牙はコーヒー片手に新聞に目を通している。


海輝が雷の隣に座り、そっと慰めてみるが。



「海輝は僕の所為じゃないって言うんでしょ」
「雷…」



雷と呼ぼうとした海輝の言葉を遮り、“僕の所為だもん…”と膝に顔を埋めてしまった。




「出来ました」
「美味しそう。じゃあ、持って行くわね」



シスイはお盆に乗ったふわふわと湯気が立つそれを受け取ろうとしたのだが。
珀に止められ、彼はにこりと笑った。
シスイは首を傾げ、珀の行動に目を向けた。



「雷」


珀は未だに膝を抱えて蹲っている雷に近寄り、見下ろした。
しかし名前を呼んでも、雷は一向に顔を上げようとしない。



「雷」



珀はもう一度呼んだ。
すると、ゆっくりと顔を上げ珀を見た。



「!・・・嫌だよ」
「まだ何も言ってないでしょう?」
「そのお盆見ればわかる。僕に持って行けって言うんでしょ。だから、嫌だ…」



いつもなら珀の頼みを喜んで引き受ける雷。
だが、今回は訳がちょっと違うのだ。
できることならしたくない。


放っておいて欲しいとでもいうように雷はまた顔を伏せてしまった。



すると珀は少し考えた後、急に眉間に皺を寄せた。



「うッ・・!!」
「!!」



そして、いかにも演技らしいうめき声を上げる。
それを見ていたシスイたちは何事かと息を呑んだ。
しかしそれが演技だとすぐに気がつく。

一方で、全然気づかない雷ははっと顔を上げ、珀を心配そうに見つめる。



「珀・・?」
「すみません・・雷・・ここ最近頭痛が酷くて・・本当は朝からずっと病んでいたんです・・」
「え・・!?」



よしもう一息だ。
珀はそう密かに意気込み、もっと痛がっているように話を続けた。



「だから、これを獅闇の所に持って行ってくれませんか…?」
「い、や、でもそれだったら僕じゃなくて他の人でもいいんじゃ…」



珀は気づかれない様にその場にいる他の者たちに目配せをした。
それに頷く彼ら。



「あーー、俺珀に買い物頼まれてたんだったー、牙も荷物持ちだったよなー?」
「あ、ああ」



急に奏は牙の腕を掴み、半ば引き摺るように家を出て行った。
それを見守った海輝もそっと珀に近寄った。



「おっと・・庭の手入れがまだでした。珀、お大事にしてくださいね」
「ええ・・ありがとうございます海輝」



海輝もテラスから庭へと出て行ってしまった。
シスイもまた同様に“お隣さんに呼ばれていて”とそそくさとその場を後にした。



そしていつの間にかリビングには珀と雷の姿しかなく。
雷は渋々珀からお盆を受け取ると、トボトボと二階に上がっていった。



* * *





珀はふぅと息を吐くと、玄関に向かう。



「ご協力ありがとうございました、シスイ様。奏、牙・・海輝も」



海輝は庭に出て行く振りをして、玄関に戻っていっていた。
ちなみに庭の手入れは朝のうちに済ませておいていたのだ。
雷はまだ寝ていたので知らなかったのが幸いだったらしい。



「ホント、俺等って団結力あるよね」
「確かにな」
「ふふ、雷には少しでも大きくなってもらいたいもの」
「そうですね、俺もそう思います」



考えることは皆同じ。
5人はお互いに顔を見合わせ、笑った。






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