「ねぇ珀」
「はい?」
「今、凄い音がしたような気がしたのだけど・・」
「はい、私も聞こえました」



噂をすれば何とやら。

そう話している時にバサバサと暴れる音と奏らしき声が聞こえてきた。



珀とシスイは顔を見合わせ、首を傾げていると、バン!と勢いよくドアが開く。



『や、止めろ・・!は、禿げる!禿げるからあああ!』
「キミが大人しくすれば済む話」
「そ、奏?」



シスイが唖然としながら奏を見ると、彼はムクホークを抱えているではないか。



「む、ムクホーク・・?!・・ってことは・・ウツギ博士からの?!」



ガタン!とシスイはイスを倒さんばかりの勢いで立ち上がり、ムクホークに詰め寄った。




「貴方、ウツギ博士の所のムクホークね?!」
『お、おう・・博士からの伝言を伝えに来たんだけど・・コイツが離してくれない・・んだ』



チラッとムクホークは奏を見て、シスイに視線を移した。




「奏。離してあげて」
「はいはーい」




奏の聞き分けの良さに、理不尽だとムクホークは一人心の中でごちた。



* * *



改めて。
ムクホークは彼女に向き直り、口を開いた。




『えーっと・・博士からの伝言。
“タマゴに劇的な変化はないけれど、少しずつ動いてきて、タマゴらしいタマゴになってきてる。
この子は絶対生まれるよ”ってことだ。
だから、生まれるまでもう少しなんじゃないのか?』



そのムクホークの言葉にシスイは顔を綻ばせた。

四年も孵らなかったタマゴ。
それが今、少しずつではあるが、変化を見せている。

よかった。
生まれてくることを諦めていない。


シスイは安堵し、ストンとイスに座り込んだ。



「シスイ様・・!」



珀はすかさず彼女に寄り、ずれたカーディガンを掛け直してやった。



「よかったな、シスイ」



牙が隣に座り、ふっと微笑んだ。
奏もムクホークの隣で笑っている。



「うん、よかった」



シスイはふっと息を吐き、目の前に置いてあるティーカップに手を伸ばした。


が。


それは珀によって阻止される。



「!・・珀」
「淹れ直します」
「いいよ、少し冷めただけじゃない」



しかし、珀はそのままティーカップを持ってキッチンに行ってしまった。
シスイはそれに苦笑するしかなかった。









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