それから。
完全にしばかれた奏は暫くソファでピクリとも動かなかった。
そしてそれと同時に牙が帰宅した。


「おかえり、牙」


シスイが笑顔で迎えた。
それに牙はふっと笑って“ただいま”と返す。


そして牙は疲れたようにソファに座った。
そんな牙の顔をシスイは覗き込んだ。



「大丈夫?牙」
「ああ・・」
「女の子に呼び出されていたんですってね」
「・・何故知ってるんだ・・?」



牙は目を見開き、彼女を見つめた。
シスイは返事の代わりに目の前のソファで伸びている奏を指差した。


牙は手元にあったティッシュの箱を容赦なく奏に投げつけた。



「い゛っだ!!牙!今、地味に角が当たった!!」
「知るか」
「ちぇっ・・今日は厄日だ」
「自分が招いた事だっていい加減認めろよ」



という獅闇のツッコミにまた項垂れる奏。
それを横目に牙ははぁと息を吐いた。



「疲れているのね」
「案外、しつこかったんだ・・」


何でも牙を呼び出した女の子はドラゴンタイプのポケモンが大好きなようで、ボーマンダでバトルしている牙を偶然見掛けて一目惚れしたらしい。



「原型の姿に一目惚れって・・珍しい子もいたものね」
「必要以上にベタベタとくっついてきて、離してくれなかった」


思い出しただけでも嫌なようで、今日の牙は眉間に何本も皺が寄っていた。
そんな牙の顔を見、シスイは手を伸ばし彼の頬を撫でた。


「そうだったの・・お疲れ様」
「ああ・・ありがとう、シスイ」



牙も手を伸ばし、シスイの顔に掛かった前髪をそっと払ってやった。

牙はシスイにしか従わない。
それを彼等は知っているから、この話を聞いてもあまり危機感というものはなかった。


それでその女の子はどうしたのか。


項垂れている奏の背中に乗っかっていた雷が牙に聞いた。



「あまりに鬱陶しかったから、睨みつけて追っ払った」
「お、重い・・雷・・・で、でも・・攻撃しなかっただけ紳士だよ・・ね・・牙・・うわっ!」


重さに耐え切れなかった奏がドンとソファから落ちる。
その上に乗った雷が勝ち誇った顔をしていた。



「攻撃なんてするか。相手は女だぞ」
「そうそう。顔に傷でもついたら大変だものね」


シスイは笑って、偉い偉いと言った。
牙は複雑そうな顔をして、またソファに身を沈めた。





「珀、そろそろ夕飯の準備ですか?」
「ええ、ですが粗方終わっているのであとは作るだけです」
「手伝います」



そうしていつもの光景が広がる。




シスイはそれを見ながら、ふわりと花が咲くような笑顔を見せたのだった。








〜続く〜



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