「シスイ様・・」
そのやりとりを唖然と見ていたシスイの目の前にいつの間にか珀がいた。
何だかとても困っている。
シスイはポンポンと自分の隣を叩き、座るように促した。
「・・・申し訳御座いません・・」
「ん?」
珀はシスイの隣に座り、その肩に自分の頭をポンと乗っけた。
「珀・・」
「・・淋しかったです・・それに拗ねてもいました」
「・・うん・・そっかそっか」
シスイはさらさらの銀髪を丁寧に撫でた。
珀は目を細め、気持ち良さそうにする。
「!・・素直で良いじゃん、珀」
「・・だな。ていうか珍しいもん見れた」
変な漫談をしていた奏達もピタリと止まり、目の前の彼等を優しげに見つめた。
* * *
それから、珀はまたせっせと食事の準備を再開した。
その顔はさっきまでと打って変わって何やら吹っ切れたようで。
今日も美味しい晩御飯が期待できそうだ。
「シスイー!!」
すると雷が庭からリビングに入ってきた。
「雷」
シスイはふわっと笑い、飛びついてきた雷を受け止めた。
途端に彼の鼻腔を擽る柑橘系の香り。
「んー!シスイの香り、久しぶりー!」
雷はすりすりと彼女に擦り寄った。
そんな雷の綺麗な金髪をゆっくりと撫でた。
「シスイ、レモンの香りがするんだ!」
「そうなの?知らなかった・・」
「それはシスイが使ってるシャンプーの香りでは?」
その後からニコニコと海輝がリビングに入ってくる。
お疲れ様とシスイは海輝に一声掛けると、ありがとうございますとまた綺麗に笑った。
「あぁ、そういえば。レモンの香りって書いてあったっけ」
「俺達とは別ですからね、シスイのシャンプー」
海輝はそう言うと獅闇の隣に腰を下ろした。
雷もシスイから離れて、隣にあったイスをさり気なく彼女の近くに置いて座る。
「何して遊んでたの?」
「んーっとね・・まずキャッチボールしてから、鬼ごっこして……
あ!聞いて!シスイ!僕、やっと海輝のボール、キャッチできるようになったんだ!!」
それは嬉しそうに話す雷にシスイも自然と笑顔が零れる。
そして自然と手も上がり、ポンポンと彼の頭を撫でた。
「そう!それはよかったね!雷も強くなったってことか!」
「うん!!」
雷もニッコニコしてされるがままになっている。
その顔には確固たる自信と強さがにじみ出ていた。
「それから、今日は雷にも手伝ってもらって庭の花の手入れを」
シスイ達の家の庭には色とりどりの花が咲いている。
これらは海輝がいつも市場で買ってきて、庭に植えているもので、彼の丁寧な世話のお陰か、途中で枯れることもなく見事に咲き誇っている。
そんな今日の庭の手入れは雷にも手伝ってもらったらしく。
初めてやったけど楽しかったと雷はにこにこと笑っていた。
「また新しい植木鉢でも買ってこようかと思いまして」
「そうなの。また賑やかになっていいわね」
また綺麗になる庭に想像を膨らませながら、シスイは口元を綻ばせた。
そんな彼女を見ながら、雷は“お庭がまた綺麗になったら写真撮るんだ!”と意気込んでいる。
「写真?花の?」
「ううん!シスイとお花!」
「私も?」
「うん!!」
何で?と聞こうとしたが、雷は手を洗ってくるねと洗面所に行ってしまった。
首を傾げて、疑問に思っていると、海輝がニコリと笑って言った。
「シスイと庭の花たちがとても似ているんだそうですよ」
「え?」
「あー!確かに!」
奏が庭を見ながら、言った。
「何でって言われると難しいんだけど、シスイも花も綺麗だからかな!」
「きれい・・?」
「ええ。“綺麗”です」
また笑って海輝が言う。
そんなにこやかに言われると、シスイもそれ以上聞けず。
何だか腑に落ちないまま、“そう、なの”と返事を返した。
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