いつも通りの電話の後に現れたのは

「やあ、ゾンビマンさん」

童帝だった。





「なまえさんは今協会にいて忙しくてね。代わりに僕が来たんだ。感謝してよね」

なるほど。ちょうどなまえの近くにいたのかパシリに使われた童帝は機嫌の悪さを隠そうともしない。唇をへの字に曲げ、眉を中央に寄せたままランドセルを漁る。出てきた紙袋を荒っぽく投げ渡された。その口を開く、と、胸に大きな、可愛い、パンダのいる、セーター、が。

「おい・・・童帝、これはどういう意味だ」
「はあ?何が入ってたか知らないけど、それしか無いんだからさっさと着てよ」
「くそっ」

童帝が苛立ちに任せてとんでもない服を持ってきたのかとも思ったが、どうやら違ったようだ。とするとあいつか。考えたじゃねえか、子供にやらせりゃ俺は文句も言えない。大人しくされるがままだ。ぐ、と覚悟を固めて、俺は袖を通した。



パシャッ



頭を通した瞬間聞こえたシャッター音。音源ーー俺の前にはカメラを構えた童帝。ただし先程までの不快さを目一杯に湛えた表情ではない。笑顔だ、満面の。しかし嘲るような嫌な笑顔だ。

「わっ、はは!ゾンビマンさんとパンダ、似合わな!ははは!」

ガッ!

「テメエら・・・グルか?」
「僕のカメラッ」

童帝の胸ぐらを掴み上げる。口の端は引きつり、手は空を彷徨っている。カメラは既に俺の刀一振りで真っ二つだ。喚く童帝を引きずりながら、俺は西を睨んだ。

「なまえは協会だと言ったな?行くぞ」

きっと怒りとやり切れなさにこの世の物とは思えない顔をして、不釣合いな服を来た男が収められているであろうカメラの残骸を踏み潰し、俺は歩き出した。









「あ、童帝くん!・・・とゾンビマン・・・ウワアトテモ素敵ナオ召シモノデスネ」

会長室から出てきたわたしを待っていたのは、真っ青な顔で薄く笑う童帝くんと、後ろでそれはそれは怖ーい般若みたいな顔をして仁王立ちするゾンビマン。展開が見えたからダッシュで逃げようとしたら襟を掴まれ空き部屋に投げ込まれた。怖い。



カチリとゾンビマンが部屋の鍵を閉める音がして、わたし達は自然と正座になった。2人いるというのにゾンビマンの目はしっかりとわたしだけを捉えてるのが分かった。

「なまえ」
「は、はいぃ・・・」
「俺だってお前が仕事を全うしてくれれば何も言うことはねぇんだ」
「イエス、サー・・・」

ビクビクしながらも答えると、彼の青筋がちょこっと引いて、はあ、とため息をついた。張り詰めた空気はいくらか緩くなったが、見上げた先の人物は未だ怒りに満ちた顔つきをしている。とはいえ、パンダだ。恐ろしいとはいえ、パンダだである。



「でもゾンビマン、すごーく可愛いよぷぷぷ」
「ファンシーだねぷぷ」

ギャップに耐えきれなくなって、童帝くんと顔を合わせる。その時、ふわっと髪が動くのを感じた。首筋に何かひんやりと冷たい物が押し当てられている、今のはコイツが起こした風圧か。目の前の童帝くんがごくりと喉を鳴らした、彼のこめかみには銃口が突きつけられている。

胃が一回転したような気分で、恐る恐るゾンビマンを見る。彼はゆっくり時間をかけてわたし達を見回した後、銃と刀を降ろした。



「で、誰が発起人だ?」
「僕が考えました・・・」
「わたしが買ってきました・・・」
「ほォ・・・」

ゾンビマンが渋い顔をして拳を握るのが見える。一発くらい殴られるかと思い、ぐっと目を瞑った。ところが返ってきたのは怒りを噛み殺したような、意外にも少し優しい声だった。

「それで、楽しかったか?」
「「とっても!」」

騙された。言い終わるのが早いか、頭のてっぺんに一撃ずつ鉄拳が降ろされた。どんな怪人の攻撃よりも痛かった。





「カメラ壊されちゃったね」
「データカードは抜き取ってあるよ、なまえさん」
「本当!?さすが童帝くん!」




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