人は追い詰められると、どんな事をしだすか分かったもんじゃない。



「対象の"時を飛ばす"呪文なんだが・・・欠点がある」



いつ聞いたか、何処でだったかだって覚えていない。



「時間を指定出来ないのだ。姿を現すのが3秒後か、1時間後か、1日後か、はたまた1年後かもしれない」
「実用には程遠いな」



不確かであまりに危険な賭けではあった。



「タイムスリップの呪文かあ、面白いね」
「他の死食い人の話で、聞こえたんです。先輩は興味がありますか?」
「いや。どうせ使えたって不毛だしいいよ」



けれどもギリギリまで追い詰められた僕にとっては確かに魅力的で最高の策だったのだ。



「近ごろ、不審な動きを見せる輩がいる」
「わが君、それはどこの連中で?」
「魔法省の数人だ。主導者は分かっている、 みょうじだ」



それがどんな結果を招くか。僕にとっての最善が後の彼女にどう影響を与えてしまうか。もちろんプラスではなく負担となることは言うまでもないだろう。





「レギュラス、よく聞きなさい」
「はい。父上」
「来週のクリスマスに、みょうじ家を始末する」
「みょうじ家・・・!?それは、なまえ先輩の・・・っ」
「そうだ。対象は彼女の両親だが、クリスマスだ、彼女もおそらく巻き込まれるだろう。そこで闇の帝王自らの御所望なのだがーーー」





来週の日曜日のクリスマス、僕は2人の死食い人と共にみょうじ家を訪れる。そして2人が先輩の両親を相手している間に、僕はなまえ先輩を殺す。おそらく僕が実行出来るかどうかで、帝王は僕の忠誠を計っているのだろう。(わかっているね?)そして父の最後の一言で、それは僕の推測から真実へと変わった。





(僕がなまえ先輩を殺す!?無理に決まってる!そんなこと僕には出来ない・・・っ)

(けどもし僕が先輩を逃がしたら?処罰されるのは、僕だけでは決して済まないはずだ)






先輩は死ぬのだろう、僕に殺されて。先輩が弱いからじゃない。見抜いてしまうんだ。どういう状況に置かれているか。そして僕の立場さえ。





僕の為に、彼女は死ぬのだ。





「先輩っ!」
「レギュラス、わたしなら大丈夫。さあ杖を向けて」
「なまえ先輩、僕はあなたを殺せません」
「何をーーーでも、それじゃあ・・・!」
「すみません、なまえ先輩。・・・どうかご無事で」
「レーーー」
「Tempus praetermisissent!!」





「レギュラス、終わったか」
「ええ、確かに」
「・・・!悪霊の火を使ったのか。やり過ぎだ、死体が残らんだろう」
「なまえは殺しました。姿くらましはしていません、心配なら調べたら分かるでしょう」
「ふん、まあ良い。行くぞ」





不毛、か。確かに不毛だ。この先で僕は結局ヴォルデモートを裏切ることになったのだから。今夜の僕の行為だって、それを苦し紛れに先延ばししただけにすぎないのだ。










「ーーーここは?わたしの家?レギュラス?お父さん、お母さん?」

わたしは殺されたのか。いや、違う。生きている。ならばレギュラスは、父と母は?

歩き回ってみる。自分の家だと分かるが、恐らく先ほどの戦闘のせいだろう、荒れすさんで見る影も無い。何が何だか全くわからない。最後に向けられたあの呪文は何だったのか?そして、今わたしに何が起こっているのか?





「お久しぶりです。ダンブルドア先生」
「おお!なまえ・・・なまえか。素晴らしい、何てことじゃ」



結局わたしはホグワーツを訪ねた。この夏卒業したばかりだが、やはり頼れるのはここなのだ。しかし何か調子がおかしい。



「なまえ、君は死んだとされているのじゃよ」
「!今、何と」
「2年も前のことじゃ。落ち着いて、聞きなさいーーー」





つまりわたしは2年前、わたしにとっては昨日の晩、レギュラスに殺されていたのだ。しかし生きている。レギュラスの咄嗟の機転のおかげだとは思うが、真相を知る機会は無い。なぜならば彼は既に、一年前に、死んだそうなのだ。





「話を聞くに、君のこの件にはレギュラス・ブラックが関わっとるんじゃな?それならばこの手紙を渡すのは恐らく今じゃろうな」
「何ですか?」
「彼がわしに、いつか訪ねてくる人がいるはずだからその人に渡してくれ、と頼んだものじゃ」





「ーーーありがとうございました、ダンブルドア先生」
「のうなまえ。君は今死んだことになっとる、仕事も住む場所も無いじゃろう。君さえ良ければなんじゃが、"不死鳥の騎士団"と呼ばれる団体に入らないかの?わしの組織する団体じゃ、補助は出そう」
「もちろんです。先生がそう言ってくださるのなら、わたしは何でも構いませんし、何でもやりましょう。一度は死んだ身ですからーーー」









なまえ先輩
これを読むのが、出来るだけ遅れていると良いのですが。僕があなたを殺したことになっている以上、恐らく僕らが会うことはもうないでしょう。最後にあなたにかけたのは時を飛ばす呪文です。1分先に殺したはずのあなたが現れるかもしれない危険な賭けでした。僕は結局、2つの選択肢から選び取ることが出来なかった。横道に逸れたんだ。臆病でしょう?とんだエゴイストだ。

ねえ先輩。あなたあの時、死ぬと分かって僕に味方してくれましたね。僕の思った通りだったんです、先輩はいつだって僕を認めてくれたから。僕、後悔してるんです。あなたが僕に愛を注いでくれたように、僕もあなたを愛していたから、先輩を守りたかった。だけど被害を被るは、結局先輩1人だ。後悔、してるんです。頼りもなく知らない時の中で死人として生きる人生にしてしまったと。すみません、なまえ先輩。せめて計画が上手くいったことを願っています。どうか、ご無事で。
レギュラス・ブラック







ねえレギュラス。身体が引き千切られそうにも思えた浮遊感を感じたあの時、ずっと君の声が頭に響いてたんだよ。君はずっと謝ってた、それはとっても悲しいことで。君、何故わたしが君を助けるのを、死ぬのさえ苦としなかったかを、分かっているんでしょう?こうしてわたしが呑気に息をすることであなたが気に病むならば、この計画は意味が無かったんだ。

きっとわたし達は導かれるままには歩き続けられないものだったのでしょう。穏やかな日々を捨て行く覚悟はできています。でも、やっぱり最後に、君の声がわたしに届いたように、この声も届くといいのだけれど。ねえ、君が思い出になってしまう前にもう一度笑ってよ。謝罪なんていらないわ。わたしは君に、感謝してるのだから。






(君の選択を被害だなんて言わないで、わたしにとっては最大級の愛だったの)


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