ここはどこだ、辺り一面真っ白
だ。右、左、前、後ろ、上、下、どこを見たって何ひとつない、真っ白。目で確認できるのはわたしの身体だけだ。手を四方に伸ばしてみても指先に当たるのは地のみであった。

とりあえず動いてみる他ないだろう。立って踏みしめてみる、前方に何があるわけでもなさそうだが歩いてみよう、こんなところに留まるのも、なんだか落ち着かない。



さて、目的もなく歩いてはいるのだがどこかに着くわけでも何か発見があるわけでもなかった。ここは一体なんだ?私はいつからあそこに寝ていたんだ?ぼーっと晴れない頭に喝をいれて考えてみる。何をしてたっけ、そうだ、今さっきまで死喰い人と闘っていたじゃあないか。そうだそうだ、なかなか危ないところだった。トンクスを安全な場所に運んで、ブラックに加勢して、それからーーー

「それか、ら」

やっと思い出したのか、あれは一瞬のことだった。もう鮮明に思い出した。ついさっきのことだ、でも遠い昔のことのようにも思える。

最後に見たのはレストレンジだ、死喰い人のあの女。私は、きちんとブラックを守れたのだろうか、あの後奴はハリーの元へ戻れたろうか、瓦礫の山に叩きつけられたブラックはどこか怪我を負ってしまったろうか、なんたってあの時は私も必死だったんだ、そのくらいは許してくれよ。

そして思い出せるのは激するあの女の顔が楽しそうに歪んでいくのがだんだんに薄れるのと、冷たい底なしの闇に脚を取られて引っ張られる感覚だ。私も馬鹿じゃない、ここまでわかれば推測は簡単だ。死んだ、そう、私もついに死んでしまった。死の呪いで。



自分の置かれた立場を理解したら意味もなく歩き回るのがなんだか不毛に思えた。立ち止まって振り返ってみたが足跡が残ることもなく真っ白のままだった。なんだ、いくら歩いても同じじゃない。その時だった。微かに頬を風が撫でた、風上を見ると光が差し込んだ気がした。今まで何も無かったのに・・・。目を疑ったが、光は大きな星のように金色に輝きはじめた。次の瞬間には、わたしは走り出していた。





光を抜けた先は、先程とは世界を異にしていた。砂漠のようにどこまでも続く金色の大地、空は黄金に広がっている。遠くには懐かしい顔が見える。死んだと聞いていた友人や恩師がわいわいと何やら楽しんでいる。向かおうとしたところ、ふと1人の少年がこちらを見ているのに気づいた。



「ずいぶんと早かったですね、先輩。親族も続々来てずいぶん長いこと経ったと思いましたが、僕はあと50年は待つつもりでしたよ」

僕の事、覚えていますか?
そう不安気に見つめてくるその目を、わたしは知っている。

「わかるよ。あなたのお兄さんを助けてきたところだもの。面影がある」
「僕に兄はいないって、いつになっても分かってくれないんですね」
「ごめんごめん」

いつかのようなやり取りに、2人で声を上げて笑う。

「あなたは変わっていませんね、何年経っても」

レギュラスは懐かしむように呟いたが、そこにはどこか悲し気な色が混ざっていた。

「僕、先輩に聞いてほしいことがたくさんあるんですーーー」





驚いた。ヴォルデモートの企みにも、分霊箱の存在にも。そしてそれを見抜いたレギュラスの優れた見識と勇気に。まさか、世間の噂の裏にこんな真実があったとは。そして真実を話すのは、わたしが始めてらしい。わたしに知ってもらいたくて、この世界で何十年と待ち続けていてくれたようだ。

惜しみない賞賛を送りたいわたしに反して、レギュラスはどうやらわたしが失望すると思っていたみたいだ。クリーチャーを、家族を大切にするあまり、死喰い人として生きる決意をやすやすと裏返したことについて。わたしの横に座り事の次第を話していたレギュラスは、視線を落としきゅっと口を閉ざしてしまった。

「あなたにとって本当に譲れなかったものは、違ったんだね」

彼もわたしも気づいていなかっただけで、最初から1番大切なものは闇の帝王なんかじゃなかったのだろう。大切なものを守る決意を固め、命がけの誠意を見せたレギュラスを誰が批難するだろうか。敬服する旨を伝え、肩を抱き、頭をコツンと寄せて、そのまま髪をぐしゃぐしゃに撫でて笑いかけた。

少し子供扱い過ぎる慰め方かとヒヤヒヤしたが、当のレギュラスはちょっと困ったような笑顔で、でもどこか嬉しそうに、やっぱりなまえ先輩は変わりませんね、と言った。





「さあ、行きましょうか。皆先輩を待ってます」

立ち上がったレギュラスは、わたしの手を取って歩きだす。その晴れ晴れとした笑顔を、辺りの金色の光がキラキラと照らしていた。


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